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Something Special ~おいしいのその先に~

岩瀬大二「酒で旅するスペイン」
自転車レースとともに巡るスペインの美酒

自転車レースとともに巡るスペインの美酒
岩瀬大二

岩瀬大二

酒旅ライター、ワインナビゲーター、MC。専門誌、WEBマガジンをはじめ酒と旅をテーマとした執筆多数。ワイン学校「アカデミー・デュ・ヴァン」講師。日本最大級のスペインフェス「フィエスタ・デ・エスパーニャ」2020年実行委員長。

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酒で旅する…というタイトルですが、なかなか思うように旅に出ることもできません。スペインの憧れの場所へ、懐かしい場所へ、そこで酒を味わう旅の日は、まだ先になりそうです。そんな中ではありますが、日本にいながらスペインの風土を眺め、美酒を楽しめるバーチャルツアーともいえる機会がやってきます。8月14日から開幕する「ブエルタ・ア・エスパーニャ」です。

「ブエルタ・ア・エスパーニャ」(以下ブエルタ)は、サイクルロードレースの一大イベント。日本ではあまりポピュラーとはいえないサイクルロードレースですが、世界的には超のつくメジャースポーツで、特にレースレベルの高さと規模でグランツールと呼ばれる、フランスでのツール・ド・フランス、イタリアでのジロ・デ・イタリアと、このブエルタは世界最高峰のブランドとされています。

グランツールは3週間にわたり、その国を縦断横断しながら3,000㎞を超える距離を駆け抜けます。それだけでも途方もない冒険なのに、日によって(ステージと呼ぶ)、1500~2000mを超える山岳を超えていく過酷な戦い、超絶なスピードが要求される市街地戦、激しいアップダウンを繰り返しながら200㎞を走る消耗戦など多彩というよりも選手たちにとっては地獄巡りの日々が続きます。世界で最も過激なマラソンのチーム戦ともいえるし、各ステージのゴール前では、陸上競技の400mリレー×格闘技というような過激な場面も続出。落車、大けが、リタイアの3点セットは日常で、危険と隣り合わせでもあります。

スポーツとしては過酷すぎる3週間ですが、もうひとつの魅力があります。それはステージが行われる各地の美しい風土を存分に堪能できる日々であるということ。放送局も心得たもので、空撮含め、さまざまな角度から風景や名所を映し出してくれます。息を飲む海、山のランドスケープ、美しい花々や街並み、まるでその国のPR動画かと思う素晴らしい映像のオンパレード。全土を回るレースだけに多様な文化、景観、自然を、選手の激闘ともに知るチャンスでもあるのです。

そこにワインや酒があれば、喜びはさらに広がり、深まります。さあ、ステージに合わせてその地域のワインや酒を用意しましょう。その土地の風景とワイン、その土地での戦いとワイン。楽しめないわけがありません。スペインワイン好きなら今回のブエルタは絶好の機会。
8月14日から9月5日までの3週間、今年は、世界遺産であり着工800周年という記念の年を迎えたブルゴス大聖堂から始まり、北東部の山間を抜け地中海へ。アンダルシアを経て再び大西洋、ガリシア、そしてフィナーレは巡礼の地・サンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂へ。大聖堂から始まり総距離3336.1kmを駆け抜け、大聖堂で終わる大冒険。その間、私たちは選手たちに敬意を払いながら、さまざまな特色ある景観を楽しみ、その土地土地に思いを馳せ、そこで生まれる素晴らしいワインを味わうのです。

ではどんなワインやお酒を用意するか。当コラムの書き手の一人、グランジャポンのワインオーソリティであり、スペインワインの様々なセミナーの講師を務める常田諭史さんにも協力いただき、日程を追いながらおススメを紹介していきましょう。

第1ステージ(8月14日)~第5ステージ(8月18日)

開幕を飾る第1ステージのブルゴスは、近隣のワイン産地である、力強い赤ワインでおなじみのリベラ・デル・ドゥエロあたりを。第4~第5ステージはアラゴンからラ・マンチャへ。アラゴンは著名な産地ではありませんが、スペインを代表するブドウ品種のひとつガルナッチャの名産地。「寒暖差がしっかりある地域でボリューム感ときれいさが両立するエリアです」と常田さん。私も大好きな品種なので堪能予定。続くラ・マンチャは近年、高品質、自然派といったキーワードで最注目のエリア。標高の高さを活かしたエレガントなワインも増えているとのこと。合わせるならこの地名物のマンチェゴチーズを。

第6ステージ(8月19日)~第8ステージ(8月22日)

集団は南下し、バレンシア、ムルシアと地中海へ向かいます。バレンシアのワインと言えば、近年、注目の造り手が次々登場。もともとはバルクワイン用として下に見られてきた地品種ボバルの再興もトピックスです。そしてバレンシアといえばロゼワインに瑞々しいカヴァも待っています。第6ステージのレケナの風土と郷土の自慢ソーセージなどの美味については常田さんのコラム、バレンシアパエリアはパエリアの達人・栗原靖武シェフのコラムをチェックして臨みましょう! さらに西に向かってムルシアは安旨ワインの宝庫といってもいい土地柄。ここでのブドウ品種なら「モナストレルですね!」と常田さんは即答。料理は米料理に加えてムルシア風サラダに代表される地中海の恵みで。

第10ステージ(8月24日)~第15ステージ(8月29日)

日本人がイメージする、青い空と海、白い壁、バルコニーの花という、そのままのアンダルシアを楽しめるのは8月24日、ロケタス・デ・マルからリンコン・デ・ラ・ピクトリアへ190.2kmを走る第10ステージ。選手の左手に広がる地中海とその風を受けて進む光景は、おそらく息を飲む美しさ。ここはもちろんシェリーとシーフード。用意しておけば時差のある日本の夜がアンダルシアの太陽と雲に変わることでしょう。こちらは、アンダルシア州政府公認の「初代アンダルシアワイン・アンバサダー」である納堂友幸さんのコラムと、新倉孝之輔シェフのコラムをぜひともご参照。第11ステージからは、アンダルシアでも冷涼な山間部からポルトガル国境に近いエストレマドゥーラへと向かいます。オリーブ王国アンダルシアの中でも最上級のオリーブの街・ハエンがスタート。さらにアンダルシア北部は生ハムが特産。ここでもシェリーとの至福の時間が続くことでしょう。エストレマドゥーラは常田さんによれば「豚の放牧の光景が見られるのどかな田舎ですが最近では国際品種を上品に仕上げる新しい造り手が増えていて、注目のエリア」なのだそう。レース的には1級にカテゴライズされる険しく高い山岳を巡る厳しいコース。ここで新進気鋭のクライマー(山登りに強い選手)が勝利すればワイン同様、注目が集まるかもしれません。

第16ステージ(8月31日)~第21ステージ(9月5日)

北上し、最後の1週間は大西洋に出て、いわゆる緑のスペインを駆けます。まずは年間降水量1200mm、多様な植物と森林でも知られるカンタブリア州へ。冬にはスキーも盛んという日本人のスペイン観とは違う世界。ここはワインではなくシードラ(シードル)。「牛乳やチーズも名産」(常田さん)ということで、フランスのブルターニュやブルターニュをイメージしつつ。
ラスト3日、クライマックスはガリシア。第19ステージは、激しい総合優勝争いの一方で、癒しのエリア。温泉と美味しい軟水に、ブドウ品種はメンシアやゴデージョ。つつましやかな華やかさ、フレッシュだけど飲み疲れを感じさせないほどよい酸。激烈な戦いの中でも、選手たちに少しでもこの地の優しさが癒しをもたらしますように、という願いを込めて。第20ステージはリアスバイシャス。近年のスペインワインの中でも注目のアルバリーニョ(これが私の最近のお気に入り)をしっかり準備して。もちろんあわせるのは名物のタコ料理をはじめとするシーフード。
フィニッシュはサンティアゴ・デ・コンポステーラ。ここに通じる道は、物理的な意味での道でもあるけれど、精神的な道でもあります。困難、苦難を乗り越えてこその道。スペイン語で道は「カミ―ノ」。まさに「神の」ロード。困難、苦難の末、そこにはもちろん美酒があります。世界中から巡礼に訪れる人のためにあるのは、美食の街・サンセバスチャン同様の素晴らしいバル通り。我々も思い思いのスペインの酒と食を用意して、選手たちとともに祝祭の時間を過ごしましょう。

美しい風景、勇者たちの戦いを堪能しながらその土地のワインや酒を楽しむ。ブエルタではまったらスペイン以外でも。ツール・ド・フランスならシャンパーニュをスタートし、ブルゴーニュの特級畑を巡り、ニュイ=サン=ジョルジュでフィニッシュするというワイン好きにはたまらないステージ、オーストラリアで行われ、豪ワイン大手の「ジェイコブズ・クリーク」がスポンサーとなった「ツアー・ダウンアンダー」はアデレードの産地、カリフォルニアの「ツアー・オブ・カルフォルニア」では、ソノマやナパといったワイン畑…名場面と絶景とお酒。美しく、激しく、楽しい時間を堪能しましょう。

※ブエルタは全ステージJスポーツで放送・配信されます。また公式サイトではステージの詳細や出場選手などの最新情報もチェックできます。

岩瀬大二

岩瀬大二

酒旅ライター、ワインナビゲーター、MC。専門誌、WEBマガジンをはじめ酒と旅をテーマとした執筆多数。ワイン学校「アカデミー・デュ・ヴァン」講師。日本最大級のスペインフェス「フィエスタ・デ・エスパーニャ」2020年実行委員長。

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