金子シュウイチ「no spanish wine no life」
「食後はパチャランで決まり」 バスクとナバーラが育てた甘酸っぱい伝統酒の話

都内でスペイン料理店を展開するSoLグループ株式会社ソルインターナショナルの統括マネージャー/統括ソムリエ。イベント企画やセミナー講師などを通じ、スペインワインの普及に尽力。スペインのクラフトワインとスポーツを愛してやまない。
こんにちはマリスケリアソルの金子です。
やっと温かくなってきましたね。新芽の花も目立ち新たな旅立ちの季節ですね。
この時期になるとスペインで最も早く花を咲かせる植物の一つにエンドリーナ(Endrina)と呼ばれる果実があります。遠目から見ればサクラのような花を沢山咲かせるエンドリーナ(Endrina)ですが。日本ではスピノサスモモ、英語ではスローベリーと呼ばれる小さな果実です。このエンドリーナを原料にして作られるスペインでもっともポピュラーなリキュールが「パチャラン(Pacharán)」です。バルで食後に「何飲む?」と聞かれたら、「パチャラン(Pacharán)」と答えるのが粋だ。甘くて、ちょっと酸っぱくて、ほんのりスパイス香もあって。まるで大人のデザートみたいなリキュールなんです。

秋頃に実るエンドリーナ(スローベリー)の果実、これをアニス酒に数ヶ月漬け込んで作る。シンプルだけど奥深い。作り手の腕、果実の熟し具合、浸ける期間によっていろんな要素が味を決める。まさに、素材と技のかけ合わせでできるお酒なんです。
パチャランの起源を語るときに外せないのが、スペイン北部のナバーラ州とバスク地方です。この地域に自生していたエンドリーナ(Endrina)が全ての始まりでした。
一説によると、パチャランの起源は14世紀の修道院で生まれたとも言われています。当時の薬草酒と同じようにエンドリーナをアニスやスピリッツに漬け込んで、消化促進や胃腸の不調の為に用いられたそうです。

エンドリーナ(スローベリー)
はヨーロッパの薬草書にも登場するそうで、
・抗酸化作用
・腸の動きを穏やかにする。
・ビタミンCが豊富
と記載されています。アニスと組み合わせる事で消化系に特化した薬種になったのは自然な流れかもしれませんね。
記録に残る最古の文献では、1441年にナバーラ王妃ブランカ1世が病気療養中にパチャランを飲んでいたという記述もあります。
その後パチャランは薬としてだけでなく、地元農民たちの間で家庭用リキュールとして作られるようになります。このあたりから『食後の一杯』や『祝いの席での乾杯』といった今のような楽しみ方にかわって行きました。特にバスクやナバーラ地方では秋収穫が始まると各家庭で今年のパチャランを仕込むのが恒例行事であり、手作りの自家製パチャランを近所に配ったりして味比べをする温かい文化も残っています。
パチャランは地元の誇り=アイデンティティとしても語られるお酒だということです。「自分たちの土地が生んだ味」を大切にしたいという気持ちが、今も濃く残っているんですね。
日本の梅酒造りに文化と似てますよね。昔祖母と一緒に梅を収穫に行った記憶が甦ります。幼いながらに梅酒の梅が好きで毎年出来上がる時期にご褒美で頂いてた思い出がありますw
ナバーラ州では1988年に「パチャラン・ナバロ(Pacharán Navarro)」という原産地呼称統制員会が設置され、ナバーラ州政府や農業経営技術研究所(ITGA)などの共同で原産地呼称に関する規定の制定を進め、スペインの原産地呼称制度であるデノミナシオン・デ・オリヘン(DO)に指定され、果実の原産や製法にしっかりルールが出来ました。まさに地酒の誇りですね。
『イベントにも欠かさないパチャラン』
バスクやナバーラの収穫祭、結婚式、誕生日、洗礼式――あらゆる祝いごとで登場するのがこのお酒 なんです。特に有名なのは、パンプローナの「サン・フェルミン祭」。牛追い祭りの熱気のあと、地元の人々がほっと一息つくタイミングで、パチャランが自然と出てくるようです。またこの地域のはしご酒文化のチキテオ(Txikiteo)でも人気の一杯ですね。
昨今日本のスペイン料理店なら大体この食後酒を目にすることが出来るようになりました。なかなか食後酒の文化が染み渡らない日本ですが、スペイン北部の風土と人の手が織りなすこのお酒は、ただの甘いリキュールではない。土地の記憶、家庭の味、そして人と人をつなぐ一杯なんです。
ワインやシェリーの影に隠れがちだけど、“もうひとつのスペイン”を知るなら、パチャランは外せない存在だと思っています
「次の食後は何飲もうかな?」そんなとき、ぜひパチャランを思い出してみてほしいです。
魚介専門店六本木一丁目「マリスケリアソル(marisquería sol)」のご紹介

店舗情報 | |
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住所 | 〒106-0032 東京都港区六本木2-3-6セントラルクリブ六本木2-1F |
アクセス | 東京メトロ「六本木一丁目駅」3番出口より徒歩2分。東京メトロ「溜池山王駅」13番出口より徒歩6分。東京メトロ・都営大江戸線「六本木駅」6番出口より徒歩7分。「六本木一丁目駅」3番出口を出て、歩道橋で麻布通り・六本木通りを渡る。歩道橋を降りて、すぐ右手に現れる店舗へ。 |
URL | http://www.marisqueria-sol-roppongi.com/ |
都内でスペイン料理店を展開するSoLグループ株式会社ソルインターナショナルの統括マネージャー/統括ソムリエ。イベント企画やセミナー講師などを通じ、スペインワインの普及に尽力。スペインのクラフトワインとスポーツを愛してやまない。