岩瀬大二「酒で旅するスペイン」
暑さも楽しみにかえて。夏ならではのスペイン・ペアリング!

酒旅ライター、ワインナビゲーター、MC。専門誌、WEBマガジンをはじめ酒と旅をテーマとした執筆多数。ワイン学校「アカデミー・デュ・ヴァン」講師。日本最大級のスペインフェス「フィエスタ・デ・エスパーニャ」2020年実行委員長。
このコラムを書いているのは6月24日。早くも酷暑を予感させる季節外れの気温上昇から、一転、台風の影響での雨予報と、エクストリームな天気に翻弄されています。いずれにせよ数年、夏の暑さはなかなかタフで、涼を求めていろいろ工夫をしなければ…という感じですね。体調、本当にお気をつけください。私は数年前にかなり危険な熱中症状態になり、それ以降、無理をしないことを心がけています。また、テレビでも良く出演されている熱中症の専門家のインタビュー記事なども手掛け、素人ながら熱中症や夏の健やかな過ごし方についてはわりと詳しくなりました。その中で専門家の方とも共通の見解がありまして……、対策は窮屈なものではなく楽しくしたほうがいい! ということです。ストレスからくる不眠や自律神経の問題、やる気を失うことなどは夏の心と体に大ダメージ。これをしなければいけない、ではなく、何か楽しみを見つける。私であれば、やっぱりお酒と食事を楽しむこと!
ようやく当コラムのテーマになってまいりました。食欲が落ちてきてしまいがちで、メンタル的にもまいってしまう最近の夏ですが、なんだが元気になっちゃう、暑くて熱い夏だからこそのお酒と食事のペアリングがあります。そう、夏が来た!と喜べる、夏ならでは!という喜び。ペアリングにはいろいろあるけれど、季節とのペアリングもとても面白い。日本にも世界にも素敵な夏ならではの楽しみな酒と食がありますが、今回はもちろんスペインをピックアップしていきましょう。
まずはワインから。フレッシュなタイプが多くて、海辺や緑の中にいるようなイメージで楽しめるブドウ品種のワインがおススメ。白ワインでいえば「ベルデホ」。グリーンアップルやハーブを思わせる味わいで、酸もしっかりある。「アイレン」もフレッシュで軽やかなワインが多いですね。スパークリングワイン「カバ」の主要品種の一つでもある「マカベオ」は、フローラルさや柑橘系の控えめな風味。穏やかなランチタイムに合いそうなワインもよく見かけます。そしてアルバリーニョ。海のワインという異名もあるブドウ品種。スペインの北海岸で海の幸の宝庫でもあるガリシア地方のリアス・バイシャス産が世界的にも名を馳せています。ポルトガルの北部、日本でも評価が高いワインが多くリリースされています。風味に残る塩味が海を感じさせてくれ、ミネラル感、酸もしっかりありますが、造り手のコンセプトによって、フレッシュで軽やかなものから、黄色い柑橘がしっかり感じられるもの、白い花の香りやアロマティックで少し艶やかなものまで幅広く、それが選ぶ際の楽しさと難しさになりますが、それゆえのペアリングを探っていく楽しさがあります。
赤ワインでは軽めの「ガルナッチャ」。こちらも造り手や産地によって、味わいやスタイルは変わりますが、イチゴ、ベリーの小さなかわいらしい果実を感じられるフレッシュな方向性のものがあります。昔ながらの肉=赤ワインという考え方からすると、驚くほどいろいろな食材にあいます。
この2つのワインもはずせません。バスクからは「チャコリ」、アンダルシアからは「シェリー」。チャコリは鮮やかな酸が特長。チャコリは一般的には微発泡ワインとして知られていますが、スティル(泡なし)の白ワイン、ロゼも夏にぜひ。バスクと言えば美食の街、バルの聖地のひとつサン・セバスチャン。テーブルも良いですが、気の置けない友人とテラスで立ち飲みなんていうのも気分。シェリーはこちらでも専門の各執筆者が何度も取り上げているので詳細はそちらにおまかせして、実はこのシェリーのブドウ品種の一つである「パロミノ」はスティルワインも造られていて、どこかシェリーを思わせる味わいもあります。アルコール度数的にはシェリーよりも低く、軽やかさもあります。
呑みたくなってきた(笑)。さて、ペアリングの「夏スペイン」はどんな料理で行きましょうか? 昼の口開け、私のおススメは「ガスパチョ」。スペイン風トマトスープなんて言われ方もしますが、私はスープというより中近東のフムスのように、酒のアテにぴったりのペーストと捉えています。一般的なレシピは、トマトをベースに、キュウリ、ピーマン、玉ねぎ、ニンニクにパンとオリーブオイルにビネガー。そもそも、農作業の間、野菜の酵素や食物繊維の補給にぴったりで、ニンニクやビネガーもまた健康に良いということで生まれたいわばスムージー。夏、胃腸がまだ元気ならニンニク多めでスタミナ感もアップ。これをまずキンと冷やしたワインとともに。トマトとパンを多めにしてよりクリーミーにペーストっぽくなると「サルモレホ」。ゆで卵やハモンセラーノがトッピングされるので、さらにアテっぽくなります。アンダルシアの「ピピラーナ」は、「食べるガスパチョ」とも言われるさらにサラダ感のある料理。付け合わせにはこれもトマトとニンニクとパンの組み合わせで、パン・コン・トマテ。トーストした香りと食感がカバやシェリーとも相性よく、食欲も飲みたい欲もマシマシになります。
エンサラダ・ミスタは文字通り「ミックスサラダ」。レタス、トマト、玉ねぎに「ムルシア風サラダ」なら、ツナ、ゆで卵、オリーブを加えて。これはロゼの出番。お好みの提案としてはスペインでも食べられるタコやアサリ、グリルしたナスやアスパラガスあたりを加えるのはいかがでしょう。海の幸を加えるならアルバリーニョ、野菜ならベルデホをあわせてみたい。
海の幸では、これも旅情豊かな様子を伝えてくれる他の執筆者のコラムにも書かれているイワシの串焼き、タコのガリシア風をはじめ、大西洋と地中海の二つの海を持つスペインだけに多彩で豊富。タコのガリシア風にはもちろんリアス・バイシャスのアルバリーニョを。私はと言えば、スペインバル、料理店であれば必ずオーダーするイワシのマリネ「ボケロネス」。酸とオリーブオイルがビシッと決まっていて、あとからほんのり甘酸っぱい、そんなタイプが好みですが、いずれにしてもあわせるのはシェリーのフィノ。ドライなタイプで。ちょっとした裏技(というほどのことでもありませんが)で、シメサバに醤油ではなく、オリーブオイルをふた回し、ここにディルとブラックペッパーを一振り。これで居酒屋風ボケロネス、なんてことを家飲みではやっています。タカラ焼酎ハイボール、キリっと冷やした純米酒に、ラガービールからちゃんとシェリーもあう、和西折衷のアテです。その流れでこれも試していただきたい和西折衷のアテが「たっぷりシラスのせオリーブオイル冷ややっこ」。以前当コラムでも紹介したレシピで、豆腐にたっぷりしらすをのせ、おろししょうがを加える。そこにオリーブオイルをお好きなだけかける。お酢を少し加え、色どりと清涼感に、大葉や小松菜をお好みで。お酢を白ワインビネガーにかえるとさらに居酒屋とバルの垣根が取っ払われます。夏のスタミナ補給ならこれにニンニクを加えた肉みそのトッピングもあり!
肉料理ならポークソテー(グリル)に野菜たっぷりのサルサや赤パプリカ、アーモンド、ニンニクで作るロメスコソース。和西なら、九州名物のゆず胡椒。辛みが強すぎないもので。これにはベルデホやガルナッチャ・ロゼ。付け合わせには夏野菜のグリルを。肉も大切な夏のスタミナ源。柚や大根おろし、ポン酢をかけたハンバーグにアモンティリャードあたりの少し熟成感のあるシェリーも食欲を刺激するコンビネーションでしょう。
スペイン料理、特に地中海や南部の料理は見た目もカラフルで食欲をそそりますし、ガリシアの魚介とお酒の組み合わせは日本人の味覚にもあうシンプルで爽やかなものが多い。日本の夏野菜や調味料と組み合わせることでスペインと日本のいいとこどりで、酒のアテのバリエーションは無限(といっても過言ではない気がします)。食と酒のたのしみはストレス解消というよりも、元気に過ごすための糧。特に夏は、暑さに負けず、健やかに、心身を保つためのものであってほしい。ビアガーデンで生ビール、あえて激辛料理店や焼き肉屋で汗を流してスタミナ補給、風鈴の音色で冷や麦やもり蕎麦。いろいろな夏の工夫があって、そのひとつに、ぜひスペインの酒とアテのペアリングも加えてみてください。
追記
夏のワインは少し冷やしめでOK! ワインと温度の関係も知っておくと楽しさアップ
https://granjapon.co.jp/archives/column/iwase12
酒旅ライター、ワインナビゲーター、MC。専門誌、WEBマガジンをはじめ酒と旅をテーマとした執筆多数。ワイン学校「アカデミー・デュ・ヴァン」講師。日本最大級のスペインフェス「フィエスタ・デ・エスパーニャ」2020年実行委員長。