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Something Special ~おいしいのその先に~

岩瀬大二「酒で旅するスペイン」
ワインにとっての適温、私にとっての適温

ワインにとっての適温、私にとっての適温
岩瀬大二

岩瀬大二

酒旅ライター、ワインナビゲーター、MC。専門誌、WEBマガジンをはじめ酒と旅をテーマとした執筆多数。ワイン学校「アカデミー・デュ・ヴァン」講師。日本最大級のスペインフェス「フィエスタ・デ・エスパーニャ」2020年実行委員長。

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ワインの適温。セオリーはあります。そのワインのポテンシャルや本質が理解でき、生産者が表現した世界観をもっとも感じられる温度。つまりはそのワインにとっての最適な温度。では、家飲みでもこの温度を探り、その温度で飲まなければいけないのか。先に結論から書きますが、“今日の私の好み”でいきましょう。

実際、生産者が推奨する温度、ソムリエが推奨する温度と、私たちが家庭で楽しみたい温度、好みの温度って違ったりすることも多い。というより、どのように適温を再現するのか。味覚、好み、今食べているもの、気温や湿気の感じ方、グラスの形状…実はかなり複雑なパズルで、実に再現性は低い。そのうえで今の気分に合っているとは限らないわけで、どちらを優先するのかといえば、家で楽しむなら、自分の好みの温度のほう。そのワインの正解探しのために、的確に調整する手間と準備がストレスになってしまうことよりも、そのワインの美味しい温度は自分の好みの温度と割り切った方が楽しいですし、その分、テーブルコーディネートや料理、ホームパーティならお部屋の演出やおもてなしの一工夫の時間につかったほうが満足感は高いでしょう。

一応、温度の目安や冷やし方のコツなどを書いておきましょう。まず適温の定番的な温度帯。

□スパークリングワイン

5~8℃
キリっと泡を楽しみたいならもっと冷やしても◎。熟成タイプやオールドヴィンテージのカヴァは8℃~12℃、同タイプのシャンパーニュであればもう少し上げても

□白・ロゼ

いわゆる辛口タイプの白、ロゼは7~12℃ オールドヴィンテージや重厚なものであれば10~14℃程度
オフドライ(中辛口)や甘口はもう2、3度下げて

□赤ワイン

軽めなら10~12℃、いわゆるミディアムボディは13~16℃、重厚なものなら16~18℃

以前よく使われていた“常温”ですが、これはヨーロッパ基準で、だいたい17℃目安なので、蒸し暑く、冬は暖房が効いているような日本の屋内では、常温というよい生ぬるいぐらいの感覚になってしまいます。常温というワードは頭からはずしていただいたほうがいいでしょう。スペインといえばワイン以外にも素晴らしいお酒があります。シェリーもその一つ。冷やさず飲むのが王道なので、涼やかに味わうならグラスを冷蔵庫で冷やしておいてそこに注ぐという方法もあります。軽めの赤ワインでも冷やしたグラスに注いで体感8℃ぐらいで、魚介と合わせて、そこからそのままボトルをテーブルに置いて、時間経過とともに少しずつ温度を上げていくというのもいいですね。

冷やし方は気取らず冷蔵庫でも大丈夫。室温から赤なら1時間、軽めならもう少し、ドライに楽しみたい白なら2時間、泡系なら3時間程度でほどよい感じになるでしょう。気分をあげたいならワインクーラーの出番。氷水で一杯に浸してボトルのネックまで冷やしましょう。良く冷やしたい白ワインでも30分程度、抜栓した後もテーブルで温度を冷たくキープできるのもメリット。

さて、そもそもなぜ温度をコントロールするのか?ワインの味わいは温度によって大きく変化するからです。

冷えていれば軽やかさ、シャープさが増す一方、果実味や風味は閉じ、緊張感が出てくることも。温度が高めになってくると花開いた印象やゆったり感が増し味わいを感じやすくなる一方、それが広がりすぎて、悪い意味でジューシーすぎる印象。チャーミングさや美しさが感じられなくなり、食事とのペアリングもうまくいかないといった悪い面もあります。そのワインがどの温度なら、そのワインのあるべき姿を見せてくれるのか。むしろ温度変化を楽しむというのも面白いもの。冷やし目から入って、少しずつ自然に温度が上がっていく。その時に、「あ、このぐらいの温度感のこのワインが好みかも!」といった発見もあります。

また、フードペアリングの際に、冷えていた時はきりっとした印象があった白ワインが、白身魚のカルパッチョにあわせたいという感じから、少し温度が上がるとパンコントマテのような食感と酸味が欲しくなって、もう少しあがってくるとふっくらと火を入れたソテーにオリーブオイルで熱を入れた温野菜を添えて、というように感覚も変化していきます。こうなるとさらに適温ってなんだろう、というある種うれしい混乱も生まれてきます。

冒頭にも書きましたが、実はグラスも同様で、形状によって閉じたり、開いたり、広がったり、ストイックにな味わいになったり、変化が遅かったり、早かったり。また脚(ステム)の細さや高さでワインの味わいが気分的に変わったり。この話はまた別の機会に。

さて、“今日の私の好み”でいいんです、という話に戻りましょう。

気温が上がったり、蒸し暑くなるとワインは冷やし目で飲むのが好きという方も多いでしょう。私はふだんビールにしてもキンキンに冷えたものが好きだし、チューハイ系はグラスも冷やして氷を入れて。普段からやや冷やし目でも味覚を感じられる方なので、ワインもやや冷やし目から始めて温度を上げていく方が楽しめたりします。もちろん季節によってもその幅は変わってきます。ワインそのものに旬はありませんが、季節感や気分によって求めるものが大きく異なるのが、ワインの楽しさ。蒸し暑い日本の夏にキリっと冷やしたベルデホのワイン、夏の名残にゴデージョ、秋が深まったらイベリコ豚のローストやカジョスに少し重めの赤ワインをすこし温度をあげながら…。季節、気分、あわせる料理。その中で自分にとっての適温を探る。

いちいち温度計で計ってキープするというのではなく、ボトルを触った感覚、口に含んだ感覚、リピートする際にはそれを感覚で覚えておくということで十分。そこに今日の気分をかけあわせて少しゆるくしたり、キリっとさせたり。

そもそも初めて手にしたワインの適温ってわかりませんよね。一応ラベルやECサイトに推奨温度が書かれていますが、あくまでも参考として捉えておいた方が気楽。そのワインの適温で飲むなら、ちゃんとしたソムリエさんやアドバイザーがいるお店で。それを知ったうえで、また、自分の好みで味わうというのも楽しいものです。温度の目安はあって、確かにそれはワインそのものの適温としてリスペクト。そのうえでぜひ、同じ1本でも、いろいろな場面で自分にとっての適温を楽しんでみてください。

岩瀬大二

岩瀬大二

酒旅ライター、ワインナビゲーター、MC。専門誌、WEBマガジンをはじめ酒と旅をテーマとした執筆多数。ワイン学校「アカデミー・デュ・ヴァン」講師。日本最大級のスペインフェス「フィエスタ・デ・エスパーニャ」2020年実行委員長。

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