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Something Special ~おいしいのその先に~

岩瀬大二「酒で旅するスペイン」
自転車レースとともに巡るスペインの美酒2024

自転車レースとともに巡るスペインの美酒2024
岩瀬大二

岩瀬大二

酒旅ライター、ワインナビゲーター、MC。専門誌、WEBマガジンをはじめ酒と旅をテーマとした執筆多数。ワイン学校「アカデミー・デュ・ヴァン」講師。日本最大級のスペインフェス「フィエスタ・デ・エスパーニャ」2020年実行委員長。

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夏、スポーツ、スペインといえばサイクルロードレースの一大イベント「ブエルタ・ア・エスパーニャ」(以下ブエルタ)。

日本ではあまりポピュラーとはいえないサイクルロードレースですが、世界的には超のつくメジャースポーツで、特にレースレベルの高さと規模でグランツールと呼ばれる、フランスでのツール・ド・フランス、イタリアでのジロ・デ・イタリアと、このブエルタは世界最高峰のブランドとされています。…というコラムを以前書きました。サイクルロードレースの競技自体の過酷さ、ゆえの面白さについても紹介しているのでぜひそちらもご一読ください。

➡Column:「自転車レースとともに巡るスペインの美酒」

スポーツとしては過酷すぎる3週間ですが、各地の美しい風土を存分に堪能できる日々でもあるのがサイクルロードレースのもうひとつの魅力。放送局も心得たもので、空撮含め、さまざまな角度から風景や名所を映し出してくれます。

息を飲む海、山のランドスケープ、美しい花々や街並み、まるでその国のPR動画かと思う素晴らしい映像のオンパレード。全土を回るレースだけに多様な文化、景観、自然を、選手の激闘ともに知るチャンスでもあります。

そこにワインや酒があれば、喜びはさらに広がり、深まります。

2024年のツール・ド・フランスでは、ニュイ・サン・ジョルジュをスタートしブルゴーニュのグラン・クリュ畑の映像を楽しみながらジュヴレ・シャンベルタンのフィニッシュへ。

翌々日はシャンパーニュの南の聖地・トロワから素晴らしき生産者が集まるオーブ地域を巡る極上のコース。

ツアー・カルフォルニアやツアー・ダウンアンダー(オーストラリア)などでもワインの名生産地を巡ります。その土地の風景とワイン、その土地での戦いとワイン。楽しめないわけがありません。スペインワイン好きなら今回のブエルタは絶好の機会。今年はポルトガルのリスボンをスタートして4日目にいよいよスペインへ。

そしてフィニッシュはいつものマドリード。コースが毎年変わるのも楽しい。例えば2021年は世界遺産であり着工800周年という記念の年を迎えたブルゴス大聖堂から始まり、北東部の山間を抜け地中海へ。アンダルシア、ムルシア、バレンシアを経て再び大西洋、ガリシア、そしてフィナーレは巡礼の地・サンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂という、大聖堂で始まり大聖堂で終わる大冒険でした。

では今回はどんなワインやお酒を用意しようか。前回記事同様、当コラムの書き手の一人、グランジャポンのワインオーソリティであり、スペインワインの様々なセミナーの講師を務める常田諭史さん(https://granjapon.co.jp/archives/column_cat/tsuneda)にも協力いただき、日程を追いながらおススメを紹介していきましょう。今回のハイライトは3つ。

最初のハイライトは第5ステージ(8月21日)~第9ステージ(8月25日)。

アンダルシアを巡る5日間。セビリア、コルドバ、グラナダと観光地として名高い街々も熱狂のステージに。世界遺産やアンダルシアの街並みもたっぷりと映像で楽しめることでしょう。

お酒はなんといっても、第6ステージ。スタート地点のへレス・デ・ラ・フロンテーラと言えば、シェリーの聖地!シェリーにアンダルシアが誇るシーフード系のつまみとともに。

さらに第9ステージのグラナダ周辺は、以前から良質なナチュールワインで知られる地域。海に近くとも標高は高く冷涼。その気候が自然なワインを生み出すのでしょう。右手に地中海の風と青空を感じながら急峻な山岳へと挑む戦いを美酒を片手に。またグラナダは常田さんによれば「魔法の国」。「以前スペインで一緒に住んでいた友人が、グラナダは特別だよね、って言っていました。私も3日しか滞在していないのに本当にそうだなって感じました」。

その魔法のひとつが夜のバル街。陽気さ、フレンドリーさあふれるバルから、アラブ文化の面影を残す石造りの古い路地に、欧州らしいセンチメンタルなオレンジのライトがこぼれる。遠くにはライトアップされたアルハンブラ宮殿……。一度このマジックにハマってみたい、と想像しながらワインを一杯。

休養日を挟んでステージは一気に北海岸へ。ここが第2のハイライト。

まずはガリシア。ワイン好きならこの地ははずせません。海岸近くではアルバリーニョ、内陸にはいっていくとブレンド系と白ワインの宝庫。

中でもバル的に楽しむなら第11ステージ(8月28日)のパドロン。スペインの唐辛子パドロンの産地です。軽く油で揚げてそのままいただくシンプルなタパスで登場しますが、これがお酒とともに止まらない。基本辛くなく野菜として楽しめますが、たまにぴりっと辛いのが出てくるのもまた楽しい。入手が難しければ万願寺とうがらしでも。第13ステージ(8月30日)はルーゴ。常田さんは「ここでのつまみならタコ!」と即答。

日本のバルでもタコのガリシア風はタパスの定番になりつつありますが、中でもルーゴはその職人が集うのだとか。「ゆでっぷり、タコの目利き、塩の塩梅、どれも素晴らしいんです」。基本的にはタコを丸ごと茹でて、あがったらハサミで切りわけ、粗塩とパプリカパウダーにオリーブオイルというシンプルなものですが、だからこそ職人の技や目利きが光る。良き歯ごたえのためにはタコは獲れたてではなく、熟成が必要で、だから内陸のこの地の名物料理になった、というのも面白い。

その後カンタブリア州など緑のスペインと呼ばれるエリアを駆け抜けます。情熱の国と冠されるスペインですが、最高峰約2600m、東西約300㎞に及ぶカンタブリア山脈より大西洋側は、年間降水量が1200mmにもなる地域もあり、また多様な植物と森林があるなど、まさに緑のスペインというべき別の世界。第15ステージ(9月1日)のフィニッシュはスキー場。

緑のスペインの中でも海のスイスとも呼ばれるエリア。ミルクやチーズ、蜂蜜など高原を思わせる食材に加えて、お酒ではシードラ(リンゴのお酒)、クリーム系のリキュールも有名なのだとか。

3週間の戦い、総合王者がほぼ決まるのか?という激熱になるであろう週末のラスト3戦。酒とレースの3つ目のハイライトは、9月6日(金)、ログローニョからアルト・デ・モンカルビリョへの丘陵を巡る168㎞。地名だけだとピンとこないかもしれませんが、ここは、リオハの中心地。最後の最後にワイン好きとしてはたまらない場所がやってきます。戦いのドラマとともに存分に味わいましょう。ラムチョップ、ジャガイモとチョリソーの煮込み、赤ピーマンのソテーとリオハワイン。軽めの赤から、最後はちょっと重厚なプレステージュなものまでもう存分楽しみたいですね。

ワイン王国のリオハですが、もう一つ紹介したいアイテムがあります。途中、ちょうど中間点あたりでダロカという街を通りますが、ここには以前コラムで紹介したミード(はちみつのワイン)を手掛けるレストランの本拠地。もしかしたら店の前を通るかも…?

➡Column:「ほころぶ午後と幸せな夜に、はちみつワインを」

こちらのミードを楽しむよい機会。記事中でペアリングの推奨も提案していますのでご参考になりましたら。

ブエルタは全ステージJスポーツで放送・配信されます。
また公式サイトではステージの詳細や出場選手などの最新情報もチェックできます。世界最高峰の戦いとスペインの風景、そしてお酒と料理。よき夏の夜を!

ブエルタ・ア・エスパーニャ | サイクルロードレース | J SPORTS【公式】

岩瀬大二

岩瀬大二

酒旅ライター、ワインナビゲーター、MC。専門誌、WEBマガジンをはじめ酒と旅をテーマとした執筆多数。ワイン学校「アカデミー・デュ・ヴァン」講師。日本最大級のスペインフェス「フィエスタ・デ・エスパーニャ」2020年実行委員長。

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