岩瀬大二「酒で旅するスペイン」
ほころぶ午後と幸せな夜に、はちみつワインを
酒旅ライター、ワインナビゲーター、MC。専門誌、WEBマガジンをはじめ酒と旅をテーマとした執筆多数。ワイン学校「アカデミー・デュ・ヴァン」講師。日本最大級のスペインフェス「フィエスタ・デ・エスパーニャ」2020年実行委員長。
おもしろいワインに出会いました。
ワインといってもぶどうではなく「はちみつ」。そう、ハチミツから造られたお酒で、総称として「ミード」と呼ばれるものです。
蜂蜜、水、酵母からできるワイン(醸造酒)で、実はその起源は古く、1万年前から存在したと言われているようです。そのきっかけは偶然。ハチの巣に雨水がたまっていて、それを、喉を涸らした狩人飲んだところ、自然の恵みか、雨水によって蜂蜜の糖度が下がり自然の酵母により発酵していて、美味しいお酒になっていたのだとか。
1万年前のエピソードですから、嘘か真か……という感じもしますが、いずれにしても、古くから人の喉と心を癒していた酒なんだなあ、というのは、今回出会ったワインを味わうと不思議な納得感がありました。
ということで、そのワイン。
「Hidromiel de Baja Montaña 2019」
「Hidromiel de Baja Montaña Semidulce 2019」
ともにリオハのテロワールから生まれました。
リオハにあるミシュラン1つ星レストランVenta Moncalvillo のソムリエとシェフの兄弟と、 農学者、ワインメーカー、養蜂家たちが「世界最高の食事にあるミードを作ろう」とプロジェクトを立ち上げ、そこからリリースされたとのこと。
なぜ今ミードなのか?
というのは機会があれば聞いてみたいところです。おそらく、もともとあったこの地の伝統を大切にしたいとか、持続可能性のことなど複合的な要因はあったかと思うのですが、私が味わってみて感じたのは、今の食文化、食志向にとてもマッチするということ。そのあたりも彼らの視野には入っていたのかなと勝手に想像しました。
というのも食志向のライト化、ヘルシー化にともない、従来のリオハやボルドーの五大シャトーに代表される、骨格、味わいの重厚さ、ある程度お酒に強くないと感じられない複雑さなどをもつワインでは寄り添えないという現実があります。若い世代やライトにお酒を飲む層であればなおさらでしょう。
現在、リオハも新しい、今のスペインらしいエレガンスをもった、ライト化にあって存在が高まるワインがどんどん生まれていて、これが人気を博しています。そこに、軽やかで、食と寄り添い、繊細でありながらゆったりと楽しめるミードというワインの登場は、さらに今のリオハをより魅力的なものにしてくれるのではないかと、これも勝手に推察。
「Hidromiel de Baja Montaña 2019」と「Hidromiel de Baja Montaña Semidulce 2019」は、ともに、標高600-800 mの様々な場所に設置された巣箱から採取された蜂蜜を使用。醸造は、ステンレスタンクで14〜18℃の低温長時間醗酵。
フレンチオークで澱とともにバトナージュをしながら 9〜12ヶ月樽熟成という、ワインと同じような工程。その後 「Semidulce」はボトリング前に同じ蜂蜜を添加し、さらに12ヶ月以上瓶内で寝かせた後出荷となります。ともに、健やかそうな花蜜を感じ、柑橘類や、地中海のハーブであるタイムのアロマとローズマリーの酸。そこにほのかにアーモンドや白や黄色の花の香りから、フルーティーさや心地よい苦味も現れてきます。
ペアリング
リリースによればペアリングの推奨は、「Hidromiel de Baja Montaña 2019」は日本食、タイ料理、脂肪分のある前菜、生ハム、ドライフルーツ 苦味や酸味のある野菜、ピクルス、酢を使った料理。「Semidulce」も日本食、タイ料理があり、加えてヤギのチーズ 狩猟鳥獣(ウズラ、ウサギ、猪、鹿など)のパテ、フルーツを使ったサラダやデザートなど。リオハのお酒でありながらもこうした多様性や彼らの世界からいえばエキゾチックなアジアのフードが挙げられているのも、最近のこの地のグルメにかかわる人たちらしい感覚なのでしょうか。
私の感覚からすると「Hidromiel de Baja Montaña 2019」は想像していたよりも蜂蜜的な甘さは感じられず、むしろドライなハーブとウェットな柑橘という組み合わせで、心地よい苦みもあり、フィノなど辛口のシェリーを感じさせます。推奨ではタイ料理とも記されていますが、私は日本の春野菜の天ぷら、きす、アナゴといった江戸前の天ぷらが浮かびました。わさびとも合わせてみたい。脂をすっと切りながらほろ苦さや甘さととけあって余韻へ運んでくれる、そんなイメージです。軽やかな気持ちでランチタイムを、また夕方キックオフの一杯としても楽しませてくれるでしょう。日本の黄色、緑系の柑橘とも相性が良さそうです。
一方「Semidulce」は、素朴でも華やか、洗練されながら濃密、軽やかで、でも、ゆったりと。今まで経験したことのない面白さがあり、1杯、もう1杯、いやもう1杯…とどんどん深みにはまっていく面白さと怖さ。それでもどこまでもハッピーな感覚。こちらのほうが最後にもう一度蜂蜜を加えるということで甘味は感じられますが、べたついたようなものではなく、シャンパーニュで最後に加えるリキュール的というか、酸やハーブ感をむしろ強調してくれるような面白さがあります。ワインがお好きな方であればリースリングのオフドライや、シャンパーニュのドゥミ・セックをイメージしていただければ近い世界かもしれません。酸についてはぶどうより蜂蜜のやさしさがあるので、これも心地よい。推奨のペアリングにあるもののほか、白身魚やポークの西京漬け焼き、甘酸っぱさと辛みが調和したタイ料理とは確かに手が合いそう。青パパイヤのサラダといったエキゾチックな料理もかなりの好相性ではないかと思います。
スペインのファインダイニングが標榜する多様性のある料理にはうってつけのアイテムでしょう。
ミード=素朴、ライトと単純な図式ではなく、むしろ現在の美食の在り方にちょうどよいお酒が登場したと言った方がしっくりきます。これはミードと言うジャンル全体の話ではなく、この2つのアイテムだからこそではと感じます。みなさんの週末のテーブルを笑顔に導いてくれるお酒でもあると思います。ふんわりとテーブルに健やかな蜂蜜の香りを感じながらの午後、夜。ハチミツ紅茶や、蜂蜜を使ったクッキーや料理などとともに並べれば、大人たちだけではなく、キッズたちも一緒に。最後にあと1杯なら、クラッシュアイスとソーダ、ちょっとだけミントを加えたカクテルでよりライトに、もおススメです。
vino i vida
今回紹介したミードですが、グランジャポンが開催しているプレミアムフライデーから、よりリアルなスペインバルをお伝えする“vino i vida”という会で提供される予定とのこと。
また今後、グランジャポンサロンやネット販売での展開も検討されているようです(詳細、決定などはまた追って)。皆さんが体感されることを楽しみにしています。
“vino i vida”(プレミアムフライデー)のアーカイブ: https://granjapon.co.jp/event/premiumfriday
プレミアムフライデーオフィシャルラインアカウント: https://lin.ee/DYv8BWO
酒旅ライター、ワインナビゲーター、MC。専門誌、WEBマガジンをはじめ酒と旅をテーマとした執筆多数。ワイン学校「アカデミー・デュ・ヴァン」講師。日本最大級のスペインフェス「フィエスタ・デ・エスパーニャ」2020年実行委員長。