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Something Special ~おいしいのその先に~

増渕友子「カタルーニャのこと色々」
Flam フラン

Flam フラン
増渕友子

増渕友子

イタリア、スペイン・カタルーニャ州のレストランでの修行経験を経て、帰国後2011年よりカタルーニャ料理ベースのレストラン「カタルーニャ厨房カサマイヤ」シェフ。

  • レストラン「カタルーニャ厨房カサマイヤ」
  • @casamalla:Instagram
  • カタルーニャ厨房 カサマイヤ Facebookページ
  • カサマイヤ料理教室 YouTubeページ

私のレストラン、カサマイヤには「看板デザート」があります。

ご存知な方はご存知の、フラン(プリン)です。

デザートはフランしか召し上がらないお客様も何人もいらっしゃいます。嬉しい限りです。

カタルーニャ語ではFlam、スペイン語ではFlanと書きます。

牛乳、卵、砂糖の3つの材料だけで作ります。

日本人にとっても馴染みのあるカスタードプリンは、スペインでも伝統的なデザートの1つです。

私がフランを作り始めたのは、改めて思い起こすと、もう20年程前からになります。

もはやライフワークとなりました。

私が働いていたカタルーニャのレストランEls Casalsエルスカサルスは、40席のガストロノミックなレストランで、上階は10室のプチホテルになっています。

ホテルは食事付きの料金設定もあり、その場合はレストランの料理よりもシンプルな伝統料理が提供されます。

デザート担当だった私は、レストランのための凝ったデザートと、宿泊客のためのシンプルなデザートの両方を作っていました。

フラン(プリン)のような昔ながらのデザートは当然宿泊客向けになります。

ある日、シェフから突然、私が作ったフランを味見したいと言われました。

食べたシェフは「このフランはとても良くできているから、今日の大切なお客様に出そう」と言い、急遽レストランのお客様に出すことになりました。

これは私にとっては物凄く嬉しい出来事でした。そしてこの日を境に私のフランの追究が始まったのです。

そうなると毎回が挑戦となり、もっと美味しく、もっと美味しく、と躍起になって作り続けました。

そんなある日、ふと思い付いて、オーブンの加熱温度を大幅に下げてみたら、一段と柔らかいフランが出来上がりました。

カタルーニャの昔ながらのフランと言えば、火熱し過ぎてブツブツ穴が開いたような固いものでしたので、私のフランを食べた同僚たちは、柔らかいとこんなにも美味しいのか!とまさに目から鱗が落ちたような感激ぶりでした。

それからはもう、大切なお客様には必ずフランを出すことになりました。

世界中を食べ歩いている食通のお客様や、カタルーニャのトップシェフ達がプライベートで訪れた時などは「トモコ、完璧なフランを頼むぞ」と。結構なプレッシャーにさらされました。

私が目指すのは、やっと形を保つくらいの、ギリギリの柔らかいフラン。それ故に失敗も数え切れないほど繰り返してきました。

同じように作っても同じにならない。火の入り具合は1つずつ違うので1つずつチェック。

しかも提供直前に型から外すまで状態がわからないのですから、非効率でリスキーなデザートであります。

ある日のこと。全てのフランが崩れてしまいました。

でもシェフはそれをお客様に出すと言いました。

固いよりも崩れるくらい柔らかいフランのほうが絶対的に美味しい。

崩れているのもアバンギャルドなフランという見方も(?)できる。

しかしサービス担当の奥さんは、これは失敗作だと言い、出す出さないで大喧嘩に。

私はもう悔しくて悔しくて、一人車で大泣きしながら帰りました。

大げさに言うと、フランにまつわる私なりの歴史が色々あり、それは日本に帰った今もカサマイヤで続いているのです。

失敗と成功を繰り返しながら、世界一のフランを目指して、懲りずに一生作り続けることでしょう(笑)。

まだ召し上がったことのない皆様、ぜひ一度ご賞味ください。

カタルーニャ厨房 カサマイヤ

増渕友子

増渕友子

イタリア、スペイン・カタルーニャ州のレストランでの修行経験を経て、帰国後2011年よりカタルーニャ料理ベースのレストラン「カタルーニャ厨房カサマイヤ」シェフ。

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