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Something Special ~おいしいのその先に~

岩瀬大二「酒で旅するスペイン」
ワインは、自分らしい時間、くらしとともに。

ワインは、自分らしい時間、くらしとともに。
岩瀬大二

岩瀬大二

酒旅ライター、ワインナビゲーター、MC。専門誌、WEBマガジンをはじめ酒と旅をテーマとした執筆多数。ワイン学校「アカデミー・デュ・ヴァン」講師。日本最大級のスペインフェス「フィエスタ・デ・エスパーニャ」2020年実行委員長。

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先日、ワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」にて「テロワールとトレンド。今、改めてスペインアップデート」という講座を行いました。私は4年ほど前からこのスクールで講師として、シャンパーニュ、チリワイン、日本酒、ワインライター講座などいくつかの講座を担当しました。一般の愛好家からプロを希望する方、実際ワインの世界でプロとして働く方々など幅広い方が参加されていますが、みなさんとにかく勉強熱心で、それはそれで講師としてはプレッシャーでもあるのですが、毎回の資料の準備とシナリオ作り、そして講座のあとのフィードバックはとても大きなものがあります。

そして今回のテーマがスペインワイン。この魅力あふれるワインをすでに楽しんでいる方がいる一方で、昔のイメージで見られているままだったり、また、知られていないという現状もあります。これをワインスクールに通う熱心な方とも共有し、ゆるやかなアンバサダーになっていただくべく講座を開きました。とはいえ、私自身、ちゃんとアップデートできているのか?あわせて基本をブラッシュアップしたいという思いもあり、2人のゲスト講師を招きました。まずグランジャポンのセールスマネージャーでワインインポーター、ワインスクール講師の常田諭史さん、そして東京・六本木一丁目のスペインレストラン「マリスケリア・ソル」の統括マネージャーでスペインワインのエキスパートである金子秀一さんです。

少しその内容に触れていくと、常田さんには「風土で味わうスペインワイン~テロワールを知る」として、スペイン各地の風土に根差したブドウやワインの多様性について、食や文化とあわせて解説いただきました。例えば北部は「情熱のスぺイン」というそれはそれで素晴らしいのだけれど、それだけではない、緑と雨のスペインがあることなどを通じて、各地に独自の気候、文化、食があること、したがってその土地土地から生まれるワインについても多様性があること。そこから今、スペインワインの入口として最適なテキストにもなる4つのワイン、「白ワイン:リアスバイシャスのアルバリーニョ」、「ロサード(ロゼ):ナバーラのガルナッチャ」、「赤ワイン:フミ―ジャのモナストレル」、「赤ワイン:リベラ・デル・ドゥエロのテンプラニーリョ」をテイスティングとともに紹介いただきました。土地の個性、親和性の高い食、実際に味わっていただくとその答えはより明確になることでしょう。ナバーラロゼとナバーラ名産でもあるホワイトアスパラガス、リアスバイシャス・アルバリーニョとタコやイワシに少し火を入れてオリーブオイルをかけて、と言ったシンプルな料理、どんどんイメージがわいてきます。
※こちらの4種はグランジャポンのオンラインショップから入手できます。

金子さんには「進化するスペインワイン~生産者の個性とトレンドを知る」として、スペインワインが現在までたどってきた変化、その変化をもたらした最新アドレスにある生産者、そこから生まれているトレンドをガイドしていただきました。スペインワインが残念ながら世界的に評価されない時代から、近年、逆に世界の中でも再注目エリアとされてきた変革の歩みを、第1の潮流から現在の第7の潮流までのフェーズで解説。まず革新的な数人のレジェンドが拓いた道をその次の世代がさらなる流れにつなげ、振り向かれなかった土着ぶどうのルネッサンス、スペイン内の新しい産地の開拓、レストランの世界に革新をもたらした「エルブジ」に代表されるモダンスパニッシュ料理の影響による国際化、エレガンス化、そしてクラフト的な手触りのあるワインの造り手が固定概念にとらわれない作品を生み出している現在までを、ストーリーとして描いてくれました。

さて、今回の講座の趣旨、なぜ今、改めてスペインアップデートなのか? なぜ私はこのテーマを今やりたかったのか? それは今求められるワインの要素がスペインワインにあるから。それが今回の講座で伝えたかったことなのです。

まず、ワインに求める「もの」「こと」の変化があります。その背景には食の好みの変化、ライフスタイルの変化があります。言い換えれば見栄にこだわらない、自分らしさへの転換。食のライトウェイト、ライトテイスト化は飽食の時代への自然なアンチテーゼでもあり、新たな豊かさの指標でもあるでしょう。エルブジの料理にスペインワインがエレガンスで歩み寄っていった結果、新たらしい豊かなワインと食の関係が生まれたように、現在の食のトレンドは、クラシックで、ヘビーで、骨格ががっしりしたワインではうまく寄り添うことができなくなりつつあります。もちろんこれらワインの価値がそれで変わるわけではなく、こうしたワインでなければ表現できない素晴らしい世界があります。言えることは旧来のワインの軸だけでは語れなくなったことであり、その多様性は歓迎すべきものだということです。歓迎とは無理に旧来の価値と今の自分の嗜好をあわせなくていいということに対してです。

その流れで豊かさをどうとらえるのか? 昔の評価、伝統という名の縛り、固定概念や肩書からの自由というマインドの変化もあります。誰かが評価したから、よりも、自分の感覚を大切にする。ブランドという言葉は追随するもの、社会的な安心を得るものから、著名でなくとも自分が目利きした自分にとって価値あるものへと意味合いを変えています。食のトレンドの変化とともにワインに置き換えれば、ボルドーの5大シャトーやブルゴーニュの上質なワインを無条件に、自分の価値と切り離して受け入れる必要はない。今の自分に、とても良い意味で寄り添ってくれるワインがある。ワインは誰かの評価ではなく自分の実感でいい。ということになるでしょうか。もちろんボルドーやブルゴーニュという価値は素晴らしいものです。ふさわしい場面が間違いなくあります。ただ、それをワインの絶対的な価値としておくのではなく、肯定的な意味で「それはそれ」と感じることが自然と言えるということなのです。

ワイン生産の現場における変化もあります。栽培や醸造の現場では温暖化という課題を抱えていますが、一方では様々なイノベーションやマインドチェンジにつながっています。ことワインだけに関していえばデメリットばかりではなく、短期的(といっても50年ほどですが)に見れば新たな産地への広がり、ブドウの成熟など様々な恩恵があります。加えて生産者も私たちと同様、ライフスタイルやマインドの変化があり、それが私たちと一致していて、そこに幸せな関係も生まれています。その両者は「新しさ」といってもただやみくもに革新や最先端というワードを求めているのではなく、伝統に回帰し、昔のものを掘り起こしたりすることも自然な行動になっています。そこにこそカウンターとしての自分らしさがあることも実感しているのです。AIやアプリなどを使いこなしながら、浴衣に線香花火、フィルムカメラで紫陽花を撮る、コーヒーを豆から丁寧に入れる、おじいちゃんの世代が大切にしていた故郷のブドウでワインを造る。それは決して古いことでも新しいことでもなく自然なことなのでしょう。それがスペインワインの今にあります。

昼の陽光、緑の中でシンプルでも軽やかでも丁寧な食があって、家族とのたわいもない(でもその時間こそとても大切)会話、そこに合うワインってなんだろう、と考えたときに、そこにあるべきは自分たちが自分たちの実感として楽しめるワインがいい。そのワインの中でも、スペインワインは素敵な時間、今の豊かで丁寧なくらしぶりにちょうどいいもののひとつ。少し難しいワードを並べてしまいましたが、味わうときは、いったんそのことは忘れて、どうぞ素敵な時間を過ごしてください。

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