岩瀬大二「酒で旅するスペイン」
“春ロゼ”という楽しみ、もっと身近に

酒旅ライター、ワインナビゲーター、MC。専門誌、WEBマガジンをはじめ酒と旅をテーマとした執筆多数。ワイン学校「アカデミー・デュ・ヴァン」講師。日本最大級のスペインフェス「フィエスタ・デ・エスパーニャ」2020年実行委員長。
4年前、当コラムがスタートしたころに、ロゼの楽しみ方を紹介しました(コラムはこちらから:そのテーブルに、その穏やかな青空に。ロゼがある幸せ)。ロゼワインの素敵さ、日本だからこそできる楽しみ方などを綴ってみましたが、ますますロゼワインが面白いなと感じる日々です。迷ったらドライタイプのロゼ、これはもう僕の中ではお約束であったりもします。その当時のコラムの内容を改めてダイジェストしつつ、その理由や、春こそロゼ!をちょっと熱烈にプレゼンしますね。

スペイン、フランス、イタリア、そしてアメリカ、初夏のテラスにはロゼワインが並びます。青空と白い雲、爽やかで乾いた風の中で味わうロゼワインは、色も香りも味わいも、その光景の中で時に溶け込み、時にきらめきを放ち、可憐な表情だったり、逆にセレブリティな華やかさをもたらします。緑のガーデンも、白いパラソルも、グラスに注がれたロゼワインを通してみると、そこが絵画や物語になる不思議。ふと幸せな現実に戻るのは、その時に供される旬の食事をほおばった時。この時間に感謝したいという感情が沸き上がります。
私の思い出は、ニューヨークはロングアイランド。避暑地として名をはせるハンプトンのオープンエアレストラン。夏はピンクの季節(ロゼをピンクと呼ぶ)とばかり、青白のギンガムチェックのテーブルクロス、どの席にもロゼワインが並び、それがランチから夕暮れへと続いていく。グリルされたアトランティックサーモンと夏野菜、添えられた柑橘の香ばしさがロゼと香りごと絵画や単館ロードショー映画の場面になっているような錯覚。翌日、シティに戻ってホイットニー美術館のレストランの昼食。マダムたちがアートに話を咲かせる白いテーブルクロスの上でもロゼ。夕方、ブルックリンのブティックワイナリーのレストランに場所を移せば、そこで地元のクリエイターたちが、Tシャツ、タトゥーのイケメンソムリエの注ぐロゼを飲み、フムスやケールのサラダをつまむ。ロゼのあるシーンの素晴らしさに浸った夏の日でした。

さて、思い出を含めてロゼの魅力的なシーンを紹介しましたが、ここで登場するロゼワインはドライな味わいのものです。日本では昭和のころの印象が強いのか、なぜか「ロゼ=甘口」というイメージがあります。料理には合わない、なんだか甘ったるくて1杯も飲めない、そんな声は、実はワイン業界や、愛好家の間でも聞こえてきました。確かにそういう甘口ではここに書いた場面には合わない感じがします。もちろん甘やかなロゼワインというのは一つの個性として面白い存在で、登場するのにふさわしい場面もありますが、世界のロゼワインの約8割はドライなタイプで、そのほかオフドライ(中辛口とでも表しましょうか)の少し甘さを感じるというタイプが続きます。本場で聖地というと、フランスのプロヴァンス。ドライなロゼワインの宝庫で、リゾートホテルの白テーブルクロスと素敵なマダムたちの雰囲気にぴったりのラグジュアリーかつ美しい色合いのロゼから、伝統的な地中海の豪快な魚料理にあうようなクラシックで重厚感がある肉厚のロゼに、デザートタイプまで、まさにロゼの楽園であり王国。お隣の南ローヌにも卓越したロゼがあり、そこからイタリアから中近東へ、スペインから大西洋を渡り、ニューヨーク、アルゼンチン、チリと、素晴らしいロゼワインのエリアが広がります。フランス国内でもロワールのロゼ・ダンジュと呼ばれるオフドライやや甘口の逸品、シャンパーニュも素晴らしきロゼの宝庫です。

スペインにスポットを当てると、スペインも個性的な地域ごとに素晴らしいロゼがあります。個人的なお気に入りは地中海エリアの、ガルナッチャというぶどう品種を使った、かわいらしいけれど小気味よいパンチと、しっかりした赤ワインの骨格を感じさせる、やや濃い目のロゼ。これが出汁のしっかり効いたパエリヤやフィデウア、生ハムにムルシア風のサラダから、軽く煮込んだもつ煮こみといった料理まで幅広く合わせられます。他にも淡く、海の塩っ気を感じられるようなロゼならタコのガリシア風、アサリ、イワシのフリットなど大西洋側の緑のスペインの海の幸が欲しくなる。
さあ、日本でもロゼをもっと楽しみましょう。初夏か日常という世界のロゼの楽しみに加え、日本はロゼを非日常でも楽しめる機会が多い。初夏から夏にかけて、昼ならややドライで軽快なテイスト、少し海の塩っ気を感じられるロゼ。夏の夜は少しエキゾチックでトロピカルフルーツや南国のハーブを感じさせるロゼ。秋に入れば紅葉の色や丘の上の涼風と緑とともに、秋の味覚、鮭やきのこを堪能しながら。冬が深まればより深い色を持ったもので、ジビエにも煮込みにも、ストロベリーにも。パーティーシーンや元旦の祝賀にもロゼは映えます。鍋料理にも、お雑煮にも。
そしてなんといっても春、桜の季節がやってきます。桜の色、春らしい青空に、ロゼの色あい。もうこれだけで気分がアガります。この季節らしいロゼを選ぶなら、色合いは可憐で、飲み口は優しく、繊細。でもどこか溌剌さと快活さ。余韻は儚いながらも綺麗な酸が細く長く続いてくれるもの。かわいらしい緑のほろ苦さが、少し切なさも感じさせるロゼもいいですね。松花堂弁当、春野菜の天ぷら、桜エビのかき揚げ、竹の子やスナップエンドウを軽く塩でゆでて…。軽く柔らかい食感のパンで作ったサンドウィッチ、菜の花のキッシュや、スペインならトルティージャ、春野菜のシーザーサラダも楽しいし、梅をちらしたおにぎりに柴漬けといった組み合わせまで、妄想は膨らみます。中華のオードブル、パスタならクリーム、オイル、トマト、ピリ辛系まで幅広く。意外なところでは、ひな祭りは過ぎてしまいましたが、桜餅。もちろんハモン・セラーノにマンチェゴチーズでおしゃべりしながらも良き感じです。白ワインよりも合わせる幅が広くて、赤ワインよりは軽快。持ち寄りのお花見会や、春のホームパーティーには、やっぱりロゼ。
ぜひ、我が家の、私の、お気に入りの季節ごとのロゼワインと出会って、幸せな時間を広げてください。
告知です!
栗原シェフのコラムでも紹介されています
「パエリア・タパス祭り」
4月4日(金)~6日(日)日比谷公園にて開催!
今年は10回目の記念すべき開催です。第1回からMCとしてかかわってきましたので格別です。復活のバレンシアーナパエリアコンクール、パエリアとタパスの選手権に、スペインのビール、ワインも取りそろえ。ステージでは恒例のフラメンコ、スペインの伝統ポップス・トゥナをはじめ多彩なプログラムなどなど、今回もステージMCとして3日間、盛り上げていきますので、ぜひ会場で楽しんでください!
栗原靖武シェフのコラム
祝!第10回パエリアタパス祭り開催決定!
https://granjapon.co.jp/archives/column/kurihara18
パエリア・タパス祭り 公式サイト
パエリア・タパス祭り 公式instagram
https://www.instagram.com/paella_tapas_festival/
酒旅ライター、ワインナビゲーター、MC。専門誌、WEBマガジンをはじめ酒と旅をテーマとした執筆多数。ワイン学校「アカデミー・デュ・ヴァン」講師。日本最大級のスペインフェス「フィエスタ・デ・エスパーニャ」2020年実行委員長。