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Something Special ~おいしいのその先に~

岩瀬大二「酒で旅するスペイン」
シャンパーニュ好きだからこそわかるカヴァの魅力

シャンパーニュ好きだからこそわかるカヴァの魅力
岩瀬大二

岩瀬大二

酒旅ライター、ワインナビゲーター、MC。専門誌、WEBマガジンをはじめ酒と旅をテーマとした執筆多数。ワイン学校「アカデミー・デュ・ヴァン」講師。日本最大級のスペインフェス「フィエスタ・デ・エスパーニャ」2020年実行委員長。

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「スペインのお酒の魅力、日本で存分に楽しみましょう!」というテーマの当コラムで、いきなりですが、私、「シュワリスタ・ラウンジ」というシャンパーニュ専門のWEBマガジンの編集長、また、フランスの委員会と生産者で組織されるシャンパーニュ騎士団から、シャンパーニュの発展と周知に寄与したということでシュヴァリエという称号まで、いただいているシャンパーニュにどっぷりな人間です。この称号、日本のプレス、ジャーナリストではまだ数名というもので…という自己紹介をあえてしますが、なぜかといえばフランス・シャンパーニュ業界の視点で見ても、スペインのスパークリングワイン「カヴァ」がとても魅力的な存在だということを書きたいから。ということで今回ピックアップするのはカヴァの楽しみ方です。

カヴァそのものについては、今後、当コラムの書き手の一人、グランジャポンのワインオーソリティであり、スペインワインの様々なセミナーの講師を務める常田諭史さんがガイドされると思いますので端折らせていただきますが、シャンパーニュとの共通点や違いについて少し触れておきます。スペインのスパークリングワインの歴史は古く、シャンパーニュ同様、250年ほどの歴史があり、造り方(「瓶内二次発酵」というメソッド)も同様。実はスペインでは1960年代までは、スパークリングワインを一般的にチャンパン、チャンパーニャと呼んでいました。しかし、フランス・シャンパーニュが世界的な認証として呼称を確立したことで使用ができなくなり、かわって、カヴァという名称が使われるようになったという経緯があります。ということでスパークリングワインであること、醸造方法などについての違いはありません。

では違いは?というとワインボトルの中の話としては、使われるブドウ。シャンパーニュはシャンパーニュで栽培されたシャルドネ、ピノ・ノワール、ムニエのほか4つ(5つとも)の品種、カヴァはマカベオ、パレリャーダ、チャレッロがメインで、そのほかガルナッチャ・ティンタなどいくつかの地品種が使われます。この個性が色濃く違いとして出てきます。また、カヴァでもシャルドネやピノ・ノワールが使われるのですが、これもシャンパーニュの個性を感じさせながらやはり、違う。その大きな要因の一つが気候。シャンパーニュはフランスのワイン生産地としては最北の冷涼地で、毎年の気象状況に翻弄される地。一方、カタルーニャをはじめとするカヴァの生産地は比較的温暖かつ安定的な気候。それが大きな個性につながります。

さて、「スペインのお酒の魅力、日本で存分に楽しみましょう!」。シャンパーニュとカヴァをどちらが上かと議論するほど野暮で無駄なことはありません。私は常々、お酒はオケージョン(場面、機会)のアイテムだと伝え続けてきました。ワインボトルの中の絶対値はあっても、味わう人の気分、時間、タイミング、ツール、誰と、どこで、そしてどんな時に、といったワインボトルの外の出来事で、同じ酒でもその喜びや評価は変わります。逆に言えば、ワインボトルの中の絶対値を知っておけば、外の出来事にあわせてより良いチョイスができます。ワインライターとしてワインをリコメンドする際に、私はこの「中と外」を常に意識していますが、それは日常の小さな成功体験、「今の自分にこのワインがいい」という積み重ねがあったから。「ブラインドテイスティングでドンペリに勝った」とか「お祝いの日にはシャンパーニュ以外ありえない」とか、なんでそんな比較をするのだろうかと疑問に思います。カヴァがふさわしいオケージョン、シャンパーニュだからこその価値、それは比較ではなくて「今の自分にこのワインがいい」というまっとうなチョイスなのです。

カヴァの特徴は先ほど挙げたブドウの個性や気候からくる、大らかさであったり果実味を素直に表現するピュアさであったり、そこからの意外な果実とお酒としての重厚感などがあります。補糖せずに辛口かつジューシーさを保てるというのも果実の恵みの証拠。この特徴から多くのカヴァに言える素敵なオケージョンは、「休日の午後、リラックスして親しい大切な人たちと過ごす」「気の置けない友人たちとのおしゃべり」「パパの(不器用だけど気持ちでつくった)男の手料理を家族で、笑顔で」「春の陽光、窓を開けて、また、パティオで昼から」「チームで結果を出した日にまずは乾杯!」「新婚でも熟年でも仲良し夫婦のちょっとした記念日に早めの時間から」。楽しく、肩の力を抜いた、そして健やかな風景が浮かびます。

そして無論、ということになりますがなんといっても強みはスペイン料理、特に郷土料理との相性の良さ。その土地のワインはその土地の料理との相性がいいという法則そのままに、カタルーニャのカヴァであれば魚介、モダンなフュージョン料理、バレンシアであればパエリアをはじめとするコメ料理や柑橘、内陸部に行けば煮込みやシンプルな肉料理。生産量ではほぼカタルーニャが占めますが、他にもカヴァを造っている土地があります。それぞれの土地の個性が反映されていますが、料理と合わせるとそれがわかりやすく伝わってきます。
さらに日本でいただくカヴァでうれしいのはコストパフォーマンスの高さ。味わってみればそれが実感できるでしょう。気軽な価格でいつもの場面を、楽しく格上げしてくれるのもカヴァの魅力。なにと、どことの比較ではなく、その中で今日はこれ。世界のスパークリングワインの中でカヴァを選ぶオケージョン。自分なりのその時、その場面を楽しんでください。

岩瀬大二

岩瀬大二

酒旅ライター、ワインナビゲーター、MC。専門誌、WEBマガジンをはじめ酒と旅をテーマとした執筆多数。ワイン学校「アカデミー・デュ・ヴァン」講師。日本最大級のスペインフェス「フィエスタ・デ・エスパーニャ」2020年実行委員長。

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