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Something Special ~おいしいのその先に~

岩瀬大二「酒で旅するスペイン」
伝統文化と新しいカルチャーの中で、ワインは美味になる

伝統文化と新しいカルチャーの中で、ワインは美味になる
岩瀬大二

岩瀬大二

酒旅ライター、ワインナビゲーター、MC。専門誌、WEBマガジンをはじめ酒と旅をテーマとした執筆多数。ワイン学校「アカデミー・デュ・ヴァン」講師。日本最大級のスペインフェス「フィエスタ・デ・エスパーニャ」2020年実行委員長。

  • daiji iwase+W

フランス料理を堪能したり、パリの思い出に浸っている時に、そこにフランスのワインがある幸せ。イタリアで訪れた場所に思いを馳せ、近所の気の置けないイタリアンに行けば、そこにイタリアのワインがあってほしい。ビリー・ジョエルを聴きながらのニューヨークワイン、イーグルスを聴きながらのカリフォルニアワイン、オージービーフに豪快にかぶりつけばオーストラリアワインが、サーモンやメープルシロップのビスケットにカナダワイン、ラグビーを見ながらのニュージーランド、南アフリカ、アルゼンチンのワイン。それが自然につながるのは、それぞれの国や地域の地勢、文化とワインの親和性が高いから。いや親和性ではなく、ワインはその土地、そこで育まれた文化そのものなのです。私は、狭義のテロワールと広義のテロワール、という言葉をよく使います。狭義は天候、地形、土壌といった、ぶどう栽培にかかわるもの。広義は造る人の人生、そのワインを愛する土地の人、これを育んできた文化、食、日常とハレの日。これがワインのキャラクターを決め、私たちが愛するものとなっていく大切な要素なのです。

そして、そのテロワールは当たり前のようにアップデートされていきます。なぜなら伝統の中でも時代の変化はありますし、その変化なくしては、伝統は守られないから。そこには若い才能がもたらすひらめきや、世界のトレンドと触れ合い歩み寄っていく日々があることでしょう。その変化を楽しみ、新しい発見があるのもワインの幸せ。例えばここでも紹介してきましたがリオハの赤。以前、輸入されていた典型的な姿としては重厚、濃厚、(昔で言うところの)男性的な骨格に、複雑さ、と大人感満載というもの。しかし、最近では土地の恵みを生かしたエレガンスで、若々しく、それでもどこか調和のとれた濃厚さ、というようなワインが多く味わえ、これは近年のスペインのモダンな料理にとても寄り添っています。ドイツの白、チリのカベルネ・ソーヴィニヨン、ナパの樽、軽いソアヴェに、酸の強いシャブリという世界的に大成功してしまったワインは、時に古臭いもの、つまらないものといった扱いを受けがちですが、そのヴェールやイメージをはがして、最新のものと出会うと、自分の固定概念をディスりたくなります。もったいない。今こそ出会うべきワインだったと。

さて、スペインワイン。まさに、テロワールの素晴らしさとアップデートの楽しさに溢れたサンクチュアリといってもいいでしょう。スペインは様々な気候、文化、民族によって形作られ、それぞれの地域の狭義・広義のテロワールによって、個性豊かな多種多彩なワインの産地であること。ガリシアの料理にはガリシアのワイン、バレンシアの料理にはバレンシアのワイン、アンダルシアに行けば海の幸とシェリーの世界…、なぜその土地の文化、気候と、その土地のワインは合うのか? 一目瞭然ならぬ、一飲瞭然。この伝統で育まれてきたものだけではなく、スペインもまた変化をし、ワインも変化しています。その変化を探り、体感することで、より豊かな世界に出会えることでしょう。

みなさんに、ぜひ、体感してほしい。ということで2021年初夏に、ワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」にて、「テロワールとトレンド。今、改めてスペインアップデート」(コラムはコチラから)という講座を行いました。

※画像は2021年開催時

ゲスト講師に、グランジャポンのセールスマネージャーでワインインポーター、ワインスクール講師の常田諭史さん、東京・六本木一丁目のスペインレストラン「マリスケリア・ソル」の統括マネージャーでスペインワインのエキスパートである金子秀一さんを迎えた講座は、常田さんには「風土で味わうスペインワイン~テロワールを知る」として、スペイン各地の風土に根差したブドウやワインの多様性について食や文化とあわせて解説いただき、金子さんには「進化するスペインワイン~生産者の個性とトレンドを知る」として、スペインワインが現在までたどってきた変化、その変化をもたらした最新アドレスにある生産者、そこから生まれているトレンドをガイドしていただきました。

常田さんのテロワール解説では、例えば「情熱のスぺイン」というそれはそれで素晴らしいのだけれど、それだけではない、北部には緑と雨のスペインがあることなどを通じて、各地に独自の気候、文化、食があること、したがってその土地ぞれぞれから生まれるワインについても多様性があること。そこから今、スペインワインの入口として最適なテキストにもなる4つのワイン、「白ワイン:リアスバイシャスのアルバリーニョ」、「ロサード(ロゼ):ナバーラのガルナッチャ」、「赤ワイン:フミ―ジャのモナストレル」、「赤ワイン:リベラ・デル・ドゥエロのテンプラニーリョ」をテイスティングとともに紹介いただきました。ナバーラロゼとナバーラ名産でもあるホワイトアスパラガス、リアスバイシャス・アルバリーニョとタコやイワシに少し火を入れてオリーブオイルをかけて、と言ったシンプルな料理などのどんどんイメージがわいてきました。

金子さんのアップデート解説では、スペインワインが残念ながら世界的に評価されない時代から、近年、逆に世界の中でも再注目エリアとされてきた変革の歩みを、第1の潮流から現在の第7の潮流までのフェーズで紹介。革新的な数人のレジェンドが拓いた道をその次の世代がさらなる流れにつなげ、振り向かれなかった土着ぶどうのルネッサンス、スペイン内の新しい産地の開拓、レストランの世界に革新をもたらした「エルブジ」に代表されるモダンスパニッシュ料理の影響による国際化、エレガンス化、そしてクラフト的な手触りのあるワインの造り手が固定概念にとらわれない作品を生み出している現在までを、ストーリーとして描いてくれました。

2年半ぶりとなります今回の講座も同様に、お二人とテロワールとアップデートについて語り尽くす予定ですが、私自身、どんな情報が得られ、体感できるのか楽しみにしています。当日は6種のワインを試飲しながらの講座となりますので、知識と3人の情熱とともに味っていただければと思います。そこから日々のワインの楽しみ方もみえてくることでしょう。バゲット、ニースの思い出、ブルーのユニフォームのサッカーチームとともにフランスワインがあって、パスタやトマトの一方でモダンなプロダクトやファッション、荘厳な大聖堂や花の都とともに南イタリア、北イタリアのワインがあって、アメリカンフットボールの熱狂とカリフォルニアの青い空とハリウッド映画とともにカリフォルニアワインがあるように、スペイン文化と地勢と、最新のトレンドとともにスペインワインを楽しむ。土曜の昼、広げて、深めてください。その足でスペインワインを飲みに行きたくなりますように。

講座

今、改めて“スペインワインアップデート”地域性とトレンドで注目のスペインを深堀

10/21 (土) 11:00~13:00 アカデミー・デュ・ヴァン青山校
全1回 9900円(初回受講は別途会員登録費がかかります)
お申込み・詳細は
https://www.adv.gr.jp/curricula/detail/14617

岩瀬大二

岩瀬大二

酒旅ライター、ワインナビゲーター、MC。専門誌、WEBマガジンをはじめ酒と旅をテーマとした執筆多数。ワイン学校「アカデミー・デュ・ヴァン」講師。日本最大級のスペインフェス「フィエスタ・デ・エスパーニャ」2020年実行委員長。

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