Ganjapon - グランジャポン

Something Special ~おいしいのその先に~

岩瀬大二「酒で旅するスペイン」
スペイン発~幸せな時間を共有するビール

スペイン発~幸せな時間を共有するビール
岩瀬大二

岩瀬大二

酒旅ライター、ワインナビゲーター、MC。専門誌、WEBマガジンをはじめ酒と旅をテーマとした執筆多数。ワイン学校「アカデミー・デュ・ヴァン」講師。日本最大級のスペインフェス「フィエスタ・デ・エスパーニャ」2020年実行委員長。

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目の前の課題を解決する、いつか果たしたい夢をいち早く叶える。何かを変え、新しいイノベーションを生むのは、こうしたモチベーションなんだろうなと思います。大きな変革や時代を動かしたムーブメントも、振り返ってみると、そのモチベーションから生まれた小さな出来事、小さな幸せな結果だったのかもしれません。

この6月、グランジャポンがお披露目した「oliBa グリーンビール」。味わい、また物語を聞いて「小さな幸せの結果」になればいいなと感じさせてくれたビールでした。

「oliBa グリーンビール」は、カタルーニャの田舎のオリーブ農園で誕生したクラフトビール。麦芽大麦、ホップ、酵母に加え、地中海性気候、たっぷりの太陽のもとで健やかに育った希少品種のオリーブ葉エキスをブレンド。グリーンオリーブ7種を使った「グリーンビール GREEN olive」とエンペルトレというブラックオリーブを使った「グリーンビール BLACK olive」の2アイテムがリリースされています。いずれもボヘミアンピルスナー(ラガー)タイプで、すっきり、軽やかなのどごしが共通した特徴です。

「グリーンビール GREEN olive」がふさわしいなと思うオケージョンは、まず造り手の狙い通りオリーブ畑の中での幸せな時間。乾いた空気と降り注ぐ太陽、そこに少しの涼風。オリーブ畑まではなかなかいけないけれど、中庭やバルコニー、テラスにオリーブの木を1本。それだけでこのビールとともにご機嫌になれそう。クラッカーに、ツナフレークとピンクペッパーといったあまり手をかけないカナッペ、オレンジをカットしたものにフレッシュなオリーブオイルとモッツアレラのようなチーズを添えて。生のズッキーニのサラダにナッツ、少し蜂蜜をかけたものも。そこにこの軽やかで清涼感、でも余韻に少し愛らしい甘味が感じられるビール。ふわしゃくな青リンゴや洋ナシをかじったような食感も心地よく、そこからあふれた自然な甘味があります。一人でも仲間とでも、楽しい午後、いやブランチからでも。もうひとつイメージできたのは和の世界。杉やヒノキの和の木材の清涼感。午後、緑深い山間の露天風呂。その風呂上りに和の木材が香るウッドデッキで外気浴。“ととのい”のひと時の後に、つまみなしにこの一杯をゆっくり味わう。鳥のささやき、わずかな風で聞こえる木々の葉の音をBGMに。そのあとのもう1杯は、オーガニックでローファイな音楽、緑の中でもジャック・ジョンソンや、やわらかいウクレレの響き、アコースティックなギターでのボサノヴァ、ちょっと海を感じさせるサウンドで、夕方からのアペロに期待を膨らませて。

その夕方からのアペロに「グリーンビール BLACK olive」。テクスチャー、味わいにグリーンよりもオリーブオイル感を感じられ、ビター感もあるガストロノミックなビール。アペロはフランス人の文化。ディナーの前の食前酒と1,2品のつまみを軽く。スペインのバルでキックオフも同じような文化でしょうか。開放的な旅館やレストラン、バル、リビングダイニングでも、窓を大きくあけて外の気配と風を感じながら。自然の緑の濃密な匂いがほどよくアロマとなってそのテーブルに届けば、このビールの世界に入り込めるでしょう。こちらのペアリングはもう少し手をかけて、もしくは少しアップグレード。フリットなら少しテクスチャーにねっとり感がある野菜、白身魚、鰻、アナゴ。青魚の血合いの部分も冒険だけれど合いそう。また、これもねっとり感のある馬刺しにオリーブオイルとゴマ油をブレンドしてあら塩で。少し大人のアペロ、タパスをゆったり親しい人と。といろいろ妄想シーンが浮かびます。

話はがらりと変わりますが、酒業界における最近の課題。国内外のワインメイカー、栽培に携わる人、インポーター、ジャーナリストの意見交換では、温暖化、事業継承、旧来のブランドにこだわらない市場などたくさんあるのですが、それをどう解決し、ポジティブなアイデアやイノベーションを図っていくのか、そこにとどまって嘆くのではなく、そこから新しいものをどう生み出していくか、という前を向いた話になっていくことが多く、心強いと感じます。その中ですでにある程度の光明が見えてきたのがノンアルコールとどう向き合うのか? 試行錯誤あって、最近では品質面で素晴らしい脱アルコール技術が生まれ、アルコール発酵をさせないタイプのノンアルコールワインに比べ格段にワインの世界観としてとらえられるものが出てきました。


▲輸入に尽力したグランジャポンさんとディスカッションする筆者。

酒業界に限らず、アレルギー対応、グルテンフリーへの取り組みは食品業界全体の大きなテーマですが、これも各分野で少しずつ進歩が見られます。例えばパン。世界的な企業から、小さなベーカリーの職人さんまでが、「家族でテーブルを囲んで同じ価値の中で食べられ、共有できる幸せ」という思いを胸に取り組んでいるという事案を取材しました。私自身は幸い目に見える食品アレルギーはありませんが、あるアレルギー対応の食品についてのテレビCMでの何気ない子供の一言で胸を打たれました。家族のテーブルにカレーライスが並べられます。そこで子供が言います。「え、今日は(みんなと)同じものが食べられるの」。この喜び。完全にとはなかなかいきませんが、「oliBa グリーンビール」のもうひとつのきらめきは極力グルテンを除去しようという試み。これだけでもこのビールが「みんなで共有する幸せ」という課題であり、おそらく造り手、会社としてのいつか果たしたい夢に対してのモチベーションを感じます。なにより「きっとこの人、ビールが、ビールがある場が好きなんだろうな」と思わせてくれる味わいと品質。オリーブでビールをつくるというイノべーションではなく「オリーブ屋が心底好きなビールを造りました」という声が聞こえてきそう(このあたりはグランジャポンさんに聞いていただきましょう)。オリーブ農園をやっているけれど、幸せなビールを創るという夢と、そのためにオリーブ屋としてできるビールを創るための目の前の課題を解決していく創意工夫と実行力。その成果はまだ小さな出来事かもしれないし、触れた私にとっても今は小さな出来事かもしれません。でもその出来事は間違いなく幸せなものですし、のちに振り返って、あぁ、この小さな幸せがこんな大きなことの1ページだったのかな、と思い出すときを期待して。

岩瀬大二

岩瀬大二

酒旅ライター、ワインナビゲーター、MC。専門誌、WEBマガジンをはじめ酒と旅をテーマとした執筆多数。ワイン学校「アカデミー・デュ・ヴァン」講師。日本最大級のスペインフェス「フィエスタ・デ・エスパーニャ」2020年実行委員長。

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