増渕友子「カタルーニャのこと色々」
パントマカ
Hola!第1回なので初めまして。カサマイヤの増渕友子です。
私は縁あって、スペイン北東部カタルーニャ州のバルセロナから、100km先の小さな村のレストランに職を得て、それまで働いていたイタリア中部から2004年の9月に移り、2011年の1月まで勤務していました。帰国後間もなく、東京都町田市玉川学園に、カタルーニャ料理ベースのレストラン「カタルーニャ厨房カサマイヤ」をオープンし、現在に至ります。
6年4か月の月日を過ごしたカタルーニャは、私の第二の故郷となり、お店の入口にはカタルーニャの旗も掲げ、私は日系カタルーニャ人か? と思うほどのカタルーニャ贔屓です(笑)。このコラムでは、カタルーニャの食・文化・生活、そして私のカタルーニャの思い出など色々と綴らせていただきます。
カタルーニャの日常食、カタルーニャ人のソウルフードと言えば、真っ先に思いつくのが、『パントマカ(Pa amb tomaquet)』でしょう。カタルーニャ語で「パンとトマト」という意味で、パンにトマトを擦り付けて、オリーブオイルと塩を振ったもの。スペイン語では『パンコントマテ(Pan con tomate)』と言います。日本でも以前よりは知られているでしょうか? ある食の雑誌の編集長も、人生最後の晩餐に食べたいのはパンコントマテだと、TV番組で話されていました。
作り方は簡単です。
①バゲットやパンドカンパーニュのようなパンを2cm位の厚さに切ってトーストする(トーストしなくてもよい)
②横半分に切ったトマトの切り口をパンに擦り付け、トマトの果汁をパンにしみこませる(トマトの前にニンニクを擦り付けることもありますが、私はしません)
③オリーブオイルと塩を振って出来上がり
私はこのパントマカを初めて食べたとき、驚き、感心しました。「目から鱗が落ちた」ような感覚でしょうか。
イタリアではトーストの上に刻んだトマトを乗せる、ブルスケッタのようなパンはありますが、トマトの果汁だけを擦り付けることはしません。
こんなに簡単なのに自分では思いつかなかった。そしてこんなに簡単で、こんなに美味しいなんて。
カタルーニャ人は2~3歳位の子供の頃に、親に教わりながらパンにトマトを擦り付けることを覚え、生涯にわたって食べ続けるのです。
日本人にとってのおにぎりやごはんとみそ汁のようなもの。
カタルーニャ人はパントマカをいつ食べるのか?
答えは、いつでも、と言えるでしょう。
朝昼晩、小腹が空いたとき、アペリティフのお供に。家庭でも、レストランでも、事あるごとに登場します。
バゲットを横半分に切ったサンドイッチにも、パンにはバターなどを塗らずにトマトを擦り付け、生ハムやチーズを挟む。パントマカのサンドイッチです。
カタルーニャでは、ホテルの朝食のビュッフェにもパントマカ用のトマトが置かれていますが、外国人観光客は知らずに食べてしまうことも(笑)。
パントマカの食習慣で私が驚いたことがあります。
それは、パントマカのトマトを使いまわすこと。
誰かがパンにトマトを擦り付けて、まだもう少し果汁が出そうなトマトを、これまだ使えるよ、と周りの人に渡し、最後まで使っていました。
他人が触ってボロボロになったトマトを自分のパンに擦り付けるのは、ちょっと抵抗がなくもないかなと(日本人的感覚でしょうか?)。初めて見たときはちょっと驚きましたが、テーブルを囲むのは家族や親しい間柄の人達ですから自然なことなんですね。周りの人たちとの親密な関係性も窺えて、とても微笑ましく思えました。
この「パントマカのトマトの共有」が、コロナ禍でなくなってしまっていませんように。
私がカタルーニャに住んでいた頃、バカンスで日本に里帰りや外国を旅行した後、カタルーニャの日常に戻ってパントマカを食べたときに、「あー、帰って来た!」と実感したものです。
今は日本で、パントマカを食べれば、その一口でカタルーニャへトリップできます(笑)。
簡単に作れますので、ぜひ作ってみて下さい。