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Something Special ~おいしいのその先に~

永田枝理子「北スペイン探検隊!」
シードラ/サガルドア/バスクのりんご酒

シードラ/サガルドア/バスクのりんご酒
永田枝理子

永田枝理子

2003年に北スペインの古都ブルゴスを訪れて以来北部の文化、食に魅了され、現地で食べたものや見てきたものをシェアするべくブログ「GreenSpainPlus」を始める。12年間スペインワイン販売に携わり、現在は北スペイン料理研究家としておうちで簡単に楽しめるお料理を発信中。スペイン語講師としても200名以上に教えた経験を持つ。

  • Green Spain Plus
  • @erikogreenspain:Instagram

こんにちは!北スペイン料理研究家、スペイン語通訳・翻訳家のErikoです。

1月には北スペインではとっても大切なイベントがあるのをご存知ですか?
それは「Txotx」(チョッツ、チョッチと発音される)と呼ばれるりんご酒の初飲みイベントです。

もし皆さんが1月から春までの間にバスク地方に行くなら、ぜひ体験してもらいたいのがこの「Txotx」です。

Txotxについて説明する前に、スペインのりんご酒についてご紹介します。スペイン語でりんご酒は「シードラ」、バスク語では「サガルドア」と呼びます。

シードラ、という名前から、しゅわしゅわした甘いりんごのお酒(シードル、サイダー)をイメージされることも多いのですが、バスク地方山間部で作られるシードラは炭酸ガスや糖の添加を行わず、破砕→発酵というシンプルな工程で作られるアルコール度4.5度程度のお酒で、Sidra natural (シードラ・ナトゥラル)と呼ばれるタイプになります。

炭酸ガス、糖の添加を行うタイプはSidra gasificada (シードラ・ガシフィカーダ)と呼ばれ、カンタブリア海沿岸お隣のお隣のアストゥリアス地方でよく作られるタイプで、これはバスク地方では作られていません。

バスク山間部、6世紀ごろには日常的に飲まれていた記述が残り、そのルーツはワインに劣らず古い歴史を持つと言われています。

平地からの流通が届きづらかった険しい山間部では「Vino(ワイン)」といえばりんごから作るもの、と認識していた人々も多かったそうです。

今のように簡単に安全・衛生的な水を飲める時代ではなかった中世では、小さな子供もシードラを水分として摂取したり、貴重な水の代わりに火事の火消しに使われるほど大量に備蓄されていたという記録も残っているほど、バスク人たちにとっては日常に根付いた大切な文化だったと言えます。

そんなシードラのメッカと呼ばれる場所がアスティガラガ。

サン・セバスティアンから南に約6kmほど入った内陸の人口7666人(2023年)の小さな自治体にも関わらず20軒のりんご酒醸造所(シードレリア/サガルドテギア)が建ち並んでいます。

それぞれの醸造所には、栗の木で作られたKupela(クペラ)と呼ばれる大樽が並び、りんご酒がたっぷり詰まってTxotxの季節を待っています。

Txotxとはスペイン語ではEspita、元はクペラに開けた穴を塞ぐための「栓」を意味する単語です。栓を外して勢いよく飛び出す液体(シードラ)を、列になった客がかわるがわるグラスで受け取り、一回りすると栓が閉められます。1月、発酵が落ち着いたりんご酒を楽しむためにお気に入りの醸造所に集まった人々に、「栓を開くぞ〜!」「Txotx!」の声がけが、イベントそのものの名前となりました。

このイベントの起源は比較的新しく、60年代に遡ります。当時は、年の始めにその一年購入するシードラを決めるため、それぞれのクペラから直接味見をさせてもらったものが行事化したと言われています。

実際に、クペラごとにシードラの味はだいぶ違ってきます。

原料は一緒なのですが、クペラ内側の菌のせいか、樽に入れられた時間の差か、あるものは酸味が強く、あるものは香りが華やかだったり、あるものは苦味がしっかりしていたりするのです。

現在、このイベントは地元以外からも人が多く集まり、初日に有名人を招く醸造所も多くあります。全国で有名な歌手や、有名なサッカー選手、バスクの人気料理人などゲストは様々。その日は醸造所は多くの人々でごった返します。

1月のピンポイントの初日には行けなくても、多くの醸造所が4月ごろまで食堂を開放しており、観光客でも気軽に訪れて大樽から直接注がれるシードラを楽しむことができます。
醸造所によっては一年中食事ができる場所もありますが、大樽のシードラはもう残っていないかもしれません。

そして、食事メニューはどこも同じなのも面白いところ。

テーブルにはピーマンの素揚げ、塩だらのオムレツ、牛肉赤身の炭火焼き、地元産イディアサバルチーズにくるみとメンブリージョ(マルメロのジャム)を添えたチーズプレートが定番です。

その食事に、大樽から注がれるシードラが飲めて大体予算は40ユーロ程度。

爽やかな香りたちのぼる素朴なシードラ、バスク人たちが愛してやまない昔からの伝統料理を楽しむこのバスクならではの伝統体験は、バスクに行ったら必須と言っても過言ではありません。

かくゆう私も、実はしばらく、バスクでの大樽からのシードラを味わっていません。
今一番行きたい醸造所はSaizar(サイサール)、なぜかというと、この醸造所がサン・セバスティアンガストロノミカ(食の学会)にて実施されたパリージャ(グリル、炭焼き)コンクールの第13代王者(2022年)だからなのです!
https://www.sidrassaizar.com/sidreria/

ガリっとした大粒の塩が振られた赤身の香ばしい炭火焼き肉を噛み締めて、シードラを浴びたい!

アスティガラガ以外にも、バスク内陸やナバーラ北部には多くの醸造所があります。

ぜひ皆さんも、1月後半〜4月にスペインを訪れたら、バスクのシードラ、サガルドアを大樽から召し上がってみてください!

永田枝理子

永田枝理子

2003年に北スペインの古都ブルゴスを訪れて以来北部の文化、食に魅了され、現地で食べたものや見てきたものをシェアするべくブログ「GreenSpainPlus」を始める。12年間スペインワイン販売に携わり、現在は北スペイン料理研究家としておうちで簡単に楽しめるお料理を発信中。スペイン語講師としても200名以上に教えた経験を持つ。

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