金子シュウイチ「no spanish wine no life」
大島唯一のマイクロボデガ「谷口酒造」の魅力
都内でスペイン料理店を展開するSoLグループ株式会社ソルインターナショナルの統括マネージャー/統括ソムリエ。イベント企画やセミナー講師などを通じ、スペインワインの普及に尽力。スペインのクラフトワインとスポーツを愛してやまない。
こんにちは。マリスケリアソルの金子です。
僕は日々スペインワインに触れていくと、良いワインは、その土地の風土と造り手の人生が映し出されると感じてきた。先日このコラムでも登場する常田君と彼の故郷の伊豆七島の一つである大島を訪れ、その思いを改めて実感させてくれたのが、島で唯一の酒蔵「谷口酒造」でした。

東京都に属しながら、どこか時間の流れがゆっくりと感じられる伊豆大島。島のシンボルである三原山の麓に、ひっそりと佇む小さな蔵では、1937年の創業以来、焼酎造りが受け継がれている。現在は三代目の谷口英久氏が、仕込みから蒸留、熟成、瓶詰めまで、そのほぼすべてを一人で手掛けている。大量生産とは対極にある酒造りだ。
蔵を訪れてまず印象に残ったのは、「一人だからこそできる酒造り」という考え方だった。
一般的な酒蔵では工程ごとに担当が分かれていることも珍しくない。しかし谷口酒造では、すべての工程を自ら確認し、自分の感覚だけを頼りに品質を管理する。その理由は単純だ。
「すべてを自分の目で見届けたい。」
この言葉には、小さな蔵だからこそ実現できる哲学が詰まっていた。

焼酎造りは、まず原料選びから始まる。谷口酒造の代表銘柄「御神火」は国産二条麦を使用し、もう一つの特徴的な商品「いも」は、国産麦と無農薬栽培のさつまいもを一緒に発酵させる独自の製法で造られている。この「麦と芋を同時に仕込む」方法は伊豆七島でも谷口酒造だけが続けている製法だという。
工程は非常に丁寧である。
麦を洗い、水分を調整し、蒸し上げた後、麹菌をまく。麹室では約40時間かけて麹菌を育てるが、その間も温度や湿度を細かく管理し続ける。谷口氏は「赤ちゃんを育てるようなもの」と表現する。麹は生き物であり、少しの温度変化でも発酵の状態が変わってしまうからだ。
その後、一次仕込み、二次仕込みを経て発酵したもろみは蒸留へ進む。

谷口酒造では常圧蒸留と減圧蒸留の二種類を使い分けている。
常圧蒸留は100℃近い温度で蒸留するため、麦の香ばしさや厚みのある旨味が残る。一方、減圧蒸留では蒸留器の内部を真空状態にし、およそ40℃前後という低温でアルコールを蒸発させることで、麦本来の華やかでフルーティーな香りをそのまま閉じ込めることができる。
代表銘柄「天上」は、この減圧蒸留による軽やかで上品な香りが特徴であり、焼酎を飲み慣れていない人にも親しみやすい一本として人気を集めている。
ワインの世界でも、発酵温度や熟成方法が味わいを左右するように、焼酎もまた工程一つひとつの積み重ねが品質を決定する。原料が同じでも、造り手の判断によって全く違う酒になる。その奥深さはワインにも通じるものがあると感じた。

もう一つ印象深かったのが、蔵で使われる水である。

仕込みには三原山の伏流水が用いられる。火山島ならではの地層で長い年月をかけて磨かれた水は、柔らかく、焼酎に雑味のない透明感を与えるという。ワインでいう「テロワール」が、焼酎にも確かに存在することを実感した。今回の訪問でも島1番の湧水の源泉に訪れさせてもらいました。そこから湧き出る天然水は三原山の栄養分を存分に吸収した、本島の軟水とは違い、心地よいミネラルと柔らかさが調和した島ならではの味わいでした。この湧水と谷口酒造さんの焼酎の水割りは格別の美味しさがありました。
近年は効率化や大量生産が求められる時代である。しかし谷口酒造では、生産量を無理に増やそうとはしない。「納得できる酒だけを世に送り出す」という姿勢を貫いている。そのため出荷量は決して多くなく、島内で優先的に販売されることも少なくないそうです。
スペインには家族経営で何世代にもわたり受け継がれるボデガが数多く存在する。今回、谷口酒造を訪れて感じたのは、その精神は日本にも確かに息づいているということだった。
土地を尊び、人を大切にし、時間を惜しまない。
その積み重ねが一本の酒に宿る。
グラスに注がれた焼酎は、単なるアルコールではなく、その土地の自然、歴史、そして造り手の人生そのものなのだと改めて感じた。
大量生産では決して生み出せない味わいがある。
伊豆大島という小さな島で、一人の造り手が今日も黙々と焼酎を造り続けている。
その一杯には、島の風景と静かな情熱が、確かに詰まっていた。
スペインのカナリヤ諸島にも伊豆七島のような幾つかの島々から成り立ち島独自の気候やテロワールを生かしたワイン作りが注目を集めています。今やスペインのアイランドワインとして世界的にも高い評価を得ています。
この伊豆七島の大島に点在するマイクロボデガ谷口酒造に今後も目が離せなくなりそう。
魚介専門店六本木一丁目「マリスケリアソル(marisquería sol)」のご紹介

| 店舗情報 | |
|---|---|
| 住所 | 〒106-0032 東京都港区六本木2-3-6セントラルクリブ六本木2-1F |
| アクセス | 東京メトロ「六本木一丁目駅」3番出口より徒歩2分。東京メトロ「溜池山王駅」13番出口より徒歩6分。東京メトロ・都営大江戸線「六本木駅」6番出口より徒歩7分。「六本木一丁目駅」3番出口を出て、歩道橋で麻布通り・六本木通りを渡る。歩道橋を降りて、すぐ右手に現れる店舗へ。 |
| URL | http://www.marisqueria-sol-roppongi.com/ |
都内でスペイン料理店を展開するSoLグループ株式会社ソルインターナショナルの統括マネージャー/統括ソムリエ。イベント企画やセミナー講師などを通じ、スペインワインの普及に尽力。スペインのクラフトワインとスポーツを愛してやまない。
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